書道人向け☆書いてある内容まとめ「伊都内親王願文/橘逸勢」
この願文は、桓武天皇の皇女である伊都内親王が、亡き母(藤原乙牟漏)や皇室の冥福を祈り、仏像の造立や一切経の供養を行った際に作成された文章です。書道史上では、橘逸勢(たちばなのはやなり)の筆と伝えられる三筆の名品としても非常に有名です。
本文全体の流れに沿って、わかりやすく詳細に現代語訳をまとめました。
1. 序文・仏教の教えと功徳
【現代語訳】
謹んで考えますに、釈迦如来がこの世界にお現れになったのは、深い慈悲をもって迷える衆生を救うためであり、仏の真理(教え)が世に広まったのは、生きとし生けるものを悟りの岸へと導くためです。
それゆえ、仏法に帰依して功徳を積む者は、必ずやその善い報いを受け、真心を込めて祈りを捧げる者は、かならずやその願いが叶うのです。
2. 願主(伊都内親王)の思いと目的
【現代語訳】
願主である私(伊都内親王)は、伏して思いを巡らせますに、先祖代々の恩徳は深く、皇室の栄華は限りなく続いております。
ここに、亡き御霊(母・藤原乙牟漏をはじめとする先祖)の追善供養のために、また現世のおだやかな安寧と、未来永劫にわたる福徳を祈念いたしまして、心を込めて仏像を奉納し、一切経(仏教経典のすべて)を書写・供養いたすものであります。
3. 具体的なお供えと供養の内容
【現代語訳】
私が精魂を込めて造立いたしました仏像ならびに整備いたしました一切経、そしてこれらを安置・維持するための寺領(土地や財産)を、謹んで寺(山階寺/興福寺)に寄進いたします。
これにより、仏法がますます興隆し、聖なる教えの光が途絶えることなく照らし続けることを切に望むものであります。
4. 祈願の言葉(結び)
【現代語訳】
伏して願わくは、この小さな善行の功徳が広く行き渡り、亡き御霊が速やかに苦しみの世界を離れて悟りの境界(極楽浄土)へと導かれますように。
また、現世に生きるすべての衆生が、ともに仏の慈悲に浴し、永く平穏と幸福を得られますように。
承和元年(834年)九月十三日
歴史的背景:
成立: 承和元年(834年)
願主: 伊都内親王(桓武天皇の第8皇女)
目的: 亡き母(藤原乙牟漏)の追善供養と、山階寺(現在の興福寺)への土地・仏具等の寄進。
書道史における価値:
平安時代初期の「三筆」のひとりである橘逸勢の書と伝えられています。
王羲之(おうぎし)の書風を汲みつつも、飛動感あふれる伸びやかな筆致(行草書)が特徴で、日本書道史上の最高傑作のひとつです。
画像に写っている部分は、平安時代の三筆の一人・橘逸勢の筆と伝えられる『伊都内親王願文(いとのないしんのうがんもん)』の冒頭部分です。
書かれている文字(翻刻)と、その現代語訳は以下の通りです。
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### 翻刻(書き起こし ※右から順)
* **1行目:** 菩薩戒弟子從五位下橘朝臣平子内親王
* **2行目:** 奉納山階寺東院西堂香燈讀經料事
* **3行目:** 側聞惟父恒母慈悲
* **4行目:** 之者從二上大覺(※草書体の崩し字)
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### 現代語訳(この部分の意味)
* **「菩薩戒を受けた弟子であり、従五位下・橘朝臣の平子内親王が、山階寺(やましなでら)の東院西堂における香燈(仏前の灯火や線香)および読経のための費用を奉納する件について。」**
* (3〜4行目以降)**「伝え聞くところによれば、思うに父は常に、母の慈悲は……」** と、両親への深い追慕の情や、今回の願文を立てた趣旨へと続いていきます。
画像の箇所は『伊都内親王願文』の中盤〜後半にあたる部分です。
右のページ(右側3行)から左のページ(左側4行)へと続いています。
文字の読み(翻刻)と、おおまかな意味(現代語訳)をまとめました。
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## 翻刻(右の行から順に)
### 【右のページ】
1. **苦津前果提之濟之妄**(※「前」は「導」の古字・異体字)
2. **此無價善根故有福**
3. **隨寶巖非莊厳而其嚴**
4. **姑唎仙崒是劫說而涉**
### 【左のページ】
5. **說是以歸依者無愛**
6. **憎而善友等敬去混**
7. **善悪而咸頼大哉大悲**
8. **能得渧搩去去矣但頃**
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## 現代語訳(おおまかな意味)
* **(右ページ)**
苦しみの海(苦津)から導き救い出し、この上なく価値のある善い種(無価善根)によって福徳をもたらします。宝の山(宝巌)は飾らなくてもおのずから神聖であり、古の仙人が住むような高い峰をも越えて教えを説かれます。
* **(左ページ)**
それゆえに仏法に帰依する者は、愛憎(愛着や憎しみ)の偏った心を持たず、良い友のように等しく敬い合います。善悪が入り交じるこの世にあって、等しく頼りとするのは、大いなる慈悲(大哉大悲)にほかなりません。
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> **※書道上の見どころ**
> 「無價」「莊嚴」「大哉大悲」などの行草書の流麗な連綿(筆脈のつながり)や、橘逸勢特有の骨太で飛動感のある筆タッチが非常に鮮やかに表れている場面です。
この箇所は『伊都内親王願文』の序盤にあたり、内親王(あるいはその血統・皇室)の徳の高さや、父母への深い敬慕、そして仏法にすがる心情が描かれています
## 釈文(文字の読み)
右のページ(右行から順)から左のページへと続きます。
### 【右ページ】
1. **之前之姓資天人以廣**
2. **氣熏江漢之英靈凝**
3. **卑深測風神肅然後**
4. **四德生知以行成就昌**
### 【左ページ】
5. **城之藥妄波千靈函**
6. **演金剛空知三身興**
7. **以平子莫日月之不面**
8. **想顔色之途遙速始典**
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## 書き下し文
> **【右ページ】**
> この前の姓は天人を資(たす)けて以て廣(ひろ)く、気は江漢の英に薫(くん)じて霊(れい)凝(こご)り、卑深(ひしん)に風神を測りて粛然(しゅくぜん)たり。然(しか)して後に四徳は生知(せいち)して以て行(おこない)成就し昌(さか)んなり。
> **【左ページ】**
> 城の薬は妄(みだ)りに千霊の函(かん)に波(なみだ)ち、金剛を演じて空しく三身の興(おこ)りを知る。平子(へいし)を以て日月(じつげつ)の面(あいまみ)えざるを莫(うれ)い、顔色(がんしょく)を想うの途(みち)遥かなるに速やかに典を始めん……
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## 現代語訳(詳細解説)
* **【右ページ:生まれもった優れた徳と気品】**
その優れた生まれと血統は、天人にも通じるほど広大であり、長江や漢水といった大河の豊かな気(英霊)が凝縮したかのような気品を備えておられます。謙虚でありながら深遠な気風と精神をお持ちで、その佇まいは実に謹厳です。生まれながらにして四徳(高い徳行)を悟り知っており、その善行はことごとく成就し、栄えておられます。
* **【左ページ:親を失った悲しみと、供養への志】**
(いくら優れた薬であっても)命の儚さには勝てず、深い悲しみの涙が霊前に溢れます。仏が説く普遍の真理(金剛)を説き、三身(仏の尊いお姿)の本質を深く悟るに至りました。
私(平子内親王)は、もはや父母という太陽や月のような存在に二度とお会いできないことを悲しみ悼み、そのお顔やお姿を偲ぶ思いは遙かに募るばかりです。そこで、速やかにこの(供養の)典礼を執り行おうとするのです……
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### 💡 この箇所の見どころ(書法・文脈)
* **「平子」の文字:** 左ページ3行目にある「平子」は、願主である伊都内親王の本名(平子内親王)を指しています。
* **書道の美:** 「江漢」「風神」「金剛」「日月」などに見られる、橘逸勢特有の伸びやかで勢いのある筆致(行草書)が非常に際立っている見ごたえのある紙面です。
## 釈文(文字の書き起こし)
### 【右ページ】
1. **丹食過差贈恩然教**
2. **觀音靈像動霜刃西**
3. **東聲咲運金綵而進**
4. **驗開則氣聚日々耀**
### 【左ページ】
5. **豪分滿月之乳牧**
6. **法花等經粉萬金而全**
7. **金字指百寶一尊齊倶**
8. **於是我墨流骨石互儀鹿**
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## 書き下し文
> **【右ページ】**
> 丹食(たんしょく)過差(かさ)なるも恩を贈り、然(しか)して教(おしえ)の観音の霊像は霜刃(そうじん)を動かし、西東(さいとう)の声咲(わら)いて金綵(きんさい)を運(めぐ)らして進む。験(しるし)開くときは即ち気(き)聚(あつ)まり日々に耀(かがよ)う。
> **【左ページ】**
> 豪(ごう)は満月の乳牧(にゅうぼく)を分かち、『法華』等の経は万金を粉(ふん)にして全(全う)し、金字は百宝の指し、一尊斉(ひとし)く倶(とも)にす。是(ここ)において我が墨は骨に流れ、石は互いに鹿を儀(ぎ)す。
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## 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:観音菩薩像の造立】**
身に余るような大きな恩徳を賜ったことに感謝し、仏の教えに従って観音菩薩の尊像(霊像)を造立いたします。刀を振るって彫り進め、あちこちから歓びの声が上がるなか、美しい金色の彩色を施して仕上げてまいります。その霊験が現れると尊い気が満ち満ちて、日々輝きを増していくかのようです。
* **【左ページ:経典(法華経など)の書写と黄金の装飾】**
(白毫から放たれる光は)満月のように清らかであり、**『法華経』をはじめとする諸経典**を書写するにあたっては、おしみなく巨万の富を尽くして完璧に仕立て上げました。金泥(金文字)を用いて一字一字心を込めて書き記し、数々の宝物で飾られた尊像とともに供養いたします。これによって我が思い(墨)は骨に染み入るほど深く、その誓いは石のごとく固く固く刻まれるのです。
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### 💡 この場面の見どころ(書法と文脈)
* **見どころの文字:**
* 右ページ2行目の「**觀音靈像**」
* 左ページ2行目(通算6行目)の「**法花等經**」(※「花」は「華」の異体字)
* 左ページ3行目(通算7行目)の「**金字**」
観音像を造り、金泥で『法華経』などを書写したという**願文の最も中心的な寄進内容**が語られている非常に重要な場面です。
* **筆圧とリズム:**
橘逸勢特有の、太細の劇的な対比と躍動感(行草書)が美しく表現されています。特に「法花」などの大きく伸びやかな筆遣いは、書道史上でも高く評価されているポイントです。
右ページから左ページへと文字が続いており、仏教の教え(経典や悟り)の奥深さと、その教えをいただく広大な喜び・恵みについて表現されている極めて美しい場面です。
以下に**釈文(文字の書き起こし)**、**読み(書き下し文)**、および詳細な現代語訳(意味)をまとめました。
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## 釈文(文字の書き起こし)
### 【右ページ】
1. **範之芳詞筆析擬**(※「範」は范)
2. **作龍宮之奧典米字**
3. **滿字同開六度之母**
4. **大枝小枝普契三三明之**
### 【左ページ】
5. **果庶幾金言雷聲一**
6. **乘之理將格玉牒雲**
7. **披五時之教斯極**
8. **海不窮飲河爛浴**
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## 書き下し文
> **【右ページ】**
> 范(はん)の芳詞(ほうし)は筆に析擬(せきぎ)して龍宮(りゅうぐう)の奥典(おうてん)を作(な)し、米字(まいじ)・満字(まんじ)は同じく六度(ろくど)の母(はは)を開き、大枝(だいし)・小枝(しょうし)は普(あまね)く三三明(さんさんみょう)の果(か)に契(ちぎ)る。
> **【左ページ】**
> 庶幾(ねが)わくは金言(きんげん)雷(いかずち)のごとく声(ひび)き、一乗(いちじょう)の理(り)格(いた)らんとし、玉牒(ぎょくちょう)雲(くも)のごとく披(ひら)け、五時(ごじ)の教(おしえ)斯(ここに)極(きわ)まらんことを。海は窮(きわ)まらず、河(かわ)に飲みて爛浴(らんよく)す。
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## 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:仏教経典と悟りの奥深さ】**
すばらしいお言葉は筆によって鮮やかに表され、あたかも龍宮に納められているような奥深い仏典(一切経)を完成させました。
(文字の基本である)「半字(米字)」も「満字」も、すべては仏の悟りへと至る六波羅蜜(六度)の母なる教えを開くものです。大きな枝も小さな枝も(あらゆる教えの道すじは)、等しく三明(仏・阿羅漢の持つ優れた智慧と神通力)という悟りの果実へとつながっています。
* **【左ページ:真理の響きと無限の恵み】**
願わくは、仏のお言葉が雷鳴のように力強く轟き渡り、すべての衆生を救う唯一の真理(一乗の理)が行き届きますように。
珠玉の経典(玉牒)が雲の晴れるがごとく鮮やかに開かれ、釈尊が生涯に説かれた教え(五時の教え)の神髄がここに極まりますように。
その恵みは無限の海のごとく尽きることがなく、大河の水を浴びて喉を潤すように、私たちは深く仏の慈悲に浴するのです。
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### 💡 この箇所の見どころ(書法と特徴)
* **ダイナミックな連綿と筆圧の対比:**
* 右ページ2行目〜3行目の「**作龍宮**」「**滿字**」など、太く力強い文字と、細く軽やかに繋がる連綿(文字の連続)が交互に現れ、作品全体のクライマックスに近い躍動感を生み出しています。
* **文字の美:**
* 左ページ4行目の「**海不窮**」の行は、水が流れるような草書の美しさが際立っており、文脈(無限の海)と書表現が見事に調和している名場面です。
画像の部分は『伊都内親王願文』の結びに近い非常に重要な箇所です。寄進の具体的内容(土地の面積など)と、亡き父母への追善供養の祈りが記されています。
以下に**釈文(文字の書き起こし)**、**書き下し文**、および詳細な現代語訳(意味)を整理いたしました。
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### 釈文(文字の書き起こし)
**【右ページ】**
1. **露恒清祥風永扇**(※前ページの「甘露恒清...」からの続き)
2. **仍納墾田四十六町余**
3. **庄一處畠一町陸乙**
4. **香燈轉讀料以充景**
**【左ページ】**
5. **業追福者此二親之**
6. **亡心救諸灑六塵揮**
7. **捎九結咀覓薬八調法**
8. **栖妃二慧攬全枝而承**
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### 書き下し文
> **【右ページ】**
> 甘露恒に清く、祥風(しょうふう)永く扇がん。仍(よ)って墾田(こんでん)四十六町余、庄(しょう)一処、畠(はたけ)一町陸乙(ろくおつ)を納(おさ)め、謹んで香燈(こうとう)・転読(てんどく)の料に充(あ)て、以て景業(けいぎょう)を充(みた)す。
> **【左ページ】**
> 福(さいわい)を追う者は此の二親(にしん)の亡心(ぼうしん)にして、諸(もろもろ)の六塵(ろくじん)を救い灑(そそ)ぎ、九結(くけつ)を揮捎(きしょう)し、薬(くすり)を咀覓(そべき)し、八調(はっちょう)の法、栖妃(せいき)の二慧(にかい)、全枝(ぜんし)を攬(と)りて承(う)く……
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### 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:土地や財産の寄進(具体的な内容)】**
甘露は常に清らかに降り注ぎ、めでたい吉風が永遠に吹き流れますように。
このような思いから、ここに**墾田(開墾した田地)四十六町余り**、**荘園一か所**、**畑一町六乙**を(山階寺/興福寺へ)寄進・奉納いたします。これを仏前のお線香・灯火(香燈)の費用、および経典を読誦(転読)する費用に充て、大いなる仏事を全ういたします。
* **【左ページ:亡き父母の冥福と解脱の祈り】**
この功徳をもって福徳を祈るのは、亡き二親(亡き父である桓武天皇、亡き母である藤原乙牟漏)の御霊(みたま)のためであります。
煩悩の汚れ(六塵)を洗い清め、迷いの束縛(九結)を払い去り、仏の法薬を味わい、正しい教えの智慧(二慧)とあらゆる徳をことごとく取り納めていただけますように……
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### 💡 この箇所の注目ポイント
* **数字の記録(史料的価値):**
右ページ2〜3行目にある「**墾田四十六町余**」「**庄一處畠一町**」という記述は、当時の皇室や貴族が寺院へ寄進した財産の規模を具体的に示す、歴史的にも大変貴重な史料部分です。
* **橘逸勢の書法:**
* 「**四十六町**」「**香燈**」などの力強く太い筆致と、漢字どうしが滑らかに結ばれる行草書の連綿(筆脈のつながり)が見事に調和しています。
* 願文全体のクライマックスにあたり、願いの深さと書勢の迫力が一体となった屈指の名場面です。
画像の箇所は、『伊都内親王願文』の中で、伊都内親王(平子)自身の信仰の心構えや徳行、そして仏の慈悲への期待について語られている場面です。
以下に**釈文(文字の書き起こし)**、**書き下し文**、および詳細な現代語訳(意味)をまとめました。
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### 釈文(文字の書き起こし)
**【右ページ】**
1. **陸列慙八禅平子即**
2. **身百神斯御萬福**
3. **毎慊大椿保年碧**
4. **石千榮又世子以常**
**【左ページ】**
5. **成才具四辯速成**
6. **六藝門闊塩和表裏**
7. **康睦遂乃體謝塵**
8. **端昇物表慈舟**
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### 書き下し文
> **【右ページ】**
> 陸列(りくれつ)八禅(はちぜん)に慙(はじ)のたまひ、平子(へいし)即身(そくしん)百神(ひゃくしん)斯(ここ)に御(おさ)め、万福(まんぷく)毎(つね)に大椿(だいちん)の年(とし)を保ち、碧石(へきせき)千栄(せんえい)なり。又、世子(せいし)常(つね)を以(もっ)て……
> **【左ページ】**
> 才(さい)を成(な)し四弁(しべん)を具(ぐ)し、速(すみや)かに六芸(ろくげい)を成(な)し、門(もん)は闊(ひろ)く塩和(えんわ)表裏(ひょうり)康睦(こうぼく)なり。遂(ついに)乃(すなわ)ち体(たい)は塵端(じんたん)を謝(しゃ)し、物表(ぶっぴょう)に昇(のぼ)りて慈舟(じしゅう)……
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### 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:身に余る福徳と長寿の祈り】**
高僧たちの修める高い瞑想の境界(八禅)に照らせば、私(平子内親王)の修業はまだまだ恥ずかしい限りです。しかし、多くの神々のお守りによってあらゆる幸福を賜り、大椿(大昔の長寿の巨木)のごとく幾千年も変わらぬ寿命と、青々とした宝石のような栄えを保たせていただいております。また、世を継ぐ者として常に……
* **【左ページ:才能の成就と俗世を超越する心】**
優れた才能を開花させ、仏教の豊かな弁舌(四無礙弁)と諸々の教養(六芸)をすみやかに修めました。その心門は広く開かれ、表も裏も調和して深く穏やかです。やがてこの肉体も俗世の汚れ(塵)を離れ、世俗を超越した高みに登って、慈悲の船(仏の救い)に乗るのです……
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### 💡 この箇所の見どころ(書法と表現)
* **言葉の対比と比喩:**
長寿の象徴である「大椿」や「碧石」、優れた能力を表す「四辯」「六藝」、仏の慈悲を船に例えた「慈舟」など、豊かな比喩表現がちりばめられています。
* **筆致(文字の勢い):**
左ページ最後にある「**慈舟**」などに見られるように、躍動感にあふれる行草書の連綿と、引き締まった起筆・終筆の変化が際立つ美しい場面です。
画像の箇所は、『伊都内親王願文』の締めくくり(願文の本文末尾)にあたる極めて重要な場面です。
すべての衆生が迷いの世界を抜け出して悟りを開くこと、そして亡き父母をはじめとする先祖代々が未来永劫救われることを願う祈りの言葉で結ばれています。
以下に**釈文(文字の書き起こし)**、**書き下し文**、および詳細な現代語訳(意味)を整理いたしました。
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### 釈文(文字の書き起こし)
**【右ページ】**
1. **誓汎倶出愛河慧**(※前ページの「慈舟暫」から続く「誓汎…」)
2. **柯一飛便趣苦海空**
3. **肯二縁真治益照**
4. **六反圓満三明洞**
**【左ページ】**
5. **朝前亡久遠同趣菩**
6. **提七世母縁普臨解**
7. **脱**
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### 書き下し文
> **【右ページ】**
> 誓(ちか)ひて汎(うか)び倶(とも)に愛河(あいか)を出(い)で、慧柯(けいか)一たび飛(と)んで便(すなわ)ち苦海(くかい)空(むな)しきに趣(おもむ)く。肯(あえ)て二縁(にしえん)の真治(しんち)を益々(ますます)照(てら)し、六反(ろくたん)円満(えんまん)にして三明(さんみょう)洞(あきら)かなり。
> **【左ページ】**
> 朝(あした)に前亡(ぜんぼう)久遠(くおん)同(とも)に菩提(ぼだい)に趣(おもむ)き、七世(しちせい)の母縁(ぼえん)普(あまね)く解脱(げだつ)に臨(のぞ)まん。
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### 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:迷いの世からの脱出と悟りの光】**
誓いを立てて(慈悲の船に)乗り、皆ともに愛着と迷いの河(愛河)を抜け出します。智慧の梢(慧柯)が一たび羽ばたけば、たちまちにして苦しみの海(苦海)は空(から)となり消え去ります。
真実の悟りの光は(父母と私という)二つの縁をいよいよ明るく照らし出し、六波羅蜜(修行の道)は円満に成就して、仏の優れた智慧(三明)はどこまでも澄み渡り明瞭となります。
* **【左ページ:亡き父母・先祖の解脱の祈り(結び)】**
願わくは、亡き両親をはじめとする遠い先祖代々の御霊(みたま)が、ともに等しく菩提(悟りの境地)へと至りますように。
そして過去七世にわたる母なる縁によってつながる人々までもが、ことごとく迷いを離れ、真の解脱(永遠の安らぎ)を得られますように。
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### 💡 この箇所の注目ポイント
* **最後の決め字「解脱」:**
左ページ2行目の最下部に「解」、そして3行目の頭にぽつんと一字大きく書かれた「**脱**」の文字があります。願文の最後の結びとなるこの「解脱」の二字は、行草書の軽やかな連綿と独特の余白を生み出しており、非常に力強く印象的な終わり方となっています。
* **橘逸勢の筆致の冴え:**
「愛河」「苦海」「菩提」「解脱」といった仏教の核心をなす言葉が並ぶこの最終場面では、筆の強弱と緩急(スピード感)が最も高まっており、書道史上でも名高い屈指のハイライトです。
画像の箇所は、『伊都内親王願文』の真の巻末(奥書・年月日と最終的な祈願)にあたる部分です。
左ページの本文結び(先ほど拝見した「解脱」の次)に続いて、日付と諸天善神・神々への祈念が記されています。
以下に**釈文(文字の書き起こし)**、**書き下し文**、および詳細な現代語訳(意味)を整理いたしました。
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### 釈文(文字の書き起こし)
**【右ページ】**
1. **承和十一年九月十三日**
2. **梵釋四王處取**
3. **廉塢相殿牧**
**【左ページ】**
4. **罡四所大神**
5. **従知證成就**
6. **変劫磐我善**
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### 書き下し文
> **【右ページ】**
> 承和十一年九月十三日。
> 梵釈(ぼんしゃく)・四王(しおう)、処(ところ)を取りて廉塢(れんう)相殿(あいでん)に牧(おさ)め、
> **【左ページ】**
> 罡(こう)四所(ししょ)の大神(おおかみ)、知(ち)に従(したが)いて成就(じょうじゅ)を証(しょう)し、劫(こう)を過ごして磐(いわ)のごとく我が善(ぜん)を……
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### 詳細な現代語訳(意味)
* **【右ページ:年月日と仏法の守護神への祈念】**
**承和11年(844年)9月13日**。
仏法を守護する最高神である大梵天(梵天)・帝釈天(梵釈)、そして四方を護る四天王(持国天・増長天・広目天・多聞天)が、この聖なる堂宇(相殿)に鎮座され、永く守護してくださいますように。
* **【左ページ:神々の加護と善根の永久不滅の祈り】**
四所の大神をはじめとする神々が、この供養の真心と智慧を認め、願いの成就を証明してくださいますように。どれほど途方もなく長い年月(劫)が経過しようとも、盤石(大きな岩)のごとく我が積み重ねた善根・功徳が揺るぐことなく保たれますように。
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### 💡 この箇所の注目ポイント
* **歴史的日付の明記:**
右ページ1行目に「**承和十一年九月十三日**」と明記されています。伊都内親王願文の成立時期を示す極めて重要な史料的根拠となっています。
* **神仏習合と守護神:**
仏教の守護神である「梵釈(梵天・帝釈天)」「四王(四天王)」に加え、日本の神々(四所大神)の名が挙げられており、平安初期における神仏習合の信仰構造が如実に表れています。
* **「承和十一年」の筆致:**
日付の「承和十一年九月十三日」は、本文の流麗な行草書に比べやや力強く落ち着いた線で書かれており、全体の結びとしての格調高さを引き立てています。
画像の箇所は、『伊都内親王願文』の真の巻末(本文・奥書の最最後)にあたる「署名と願文の締めくくり」のページと、活字化された全体の翻刻(印刷文)が配置された見開きです。
右ページの草書体で大書された部分と、左ページに解説・補足として掲載されている活字文の内容について、詳しく整理いたしました。
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### 1. 右ページ(自筆の署名と結びの言葉)
右ページには、非常に大きな躍動感あふれる草書体で以下のように書かれています。
#### 釈文(文字の書き起こし)
* **1行目:** 不陂矣
* **2行目:** 両受興福寺知内事 伊都
#### 書き下し文
> 不陂(ひ)ならざらんや。両(ふた)つながら興福寺知内事(ちないじ)を受けん。伊都(いと)。
#### 現代語訳(意味)
* **「不陂矣」**
「(この誓いや供養の功徳が)決して崩れたり、損なわれたりすることがありましょうか(いや、永遠に不滅であります)。」
* **「両受興福寺知内事 伊都」**
「興福寺の知内事(寺務をつかさどる役職・寺側)において(この願文と寄進を)確かにお受け取りください。伊都(伊都内親王の署名)。」
> **💡 書道史上の見どころ(右ページ)**
> * **「不陂矣」の大書:** 本文全体の中でもひときわ大きな文字で力強く書かれており、祈りの強固さと永遠性を象徴しています。
> * **「伊都」の署名:** 画面の一番右下に、控えめながら非常に引き締まった芯のある筆致で「伊都」と本人の自署(サイン)が記されています。
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