Queenをキチンと聴きたい人のためのアルバム解説<その1>

タイトルの通りです。キチンと聴いてみたい人用に、アルバムを1枚ずつ、全曲を解説します。

FC2USER329637POZ さん

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読んでも読まなくていい前文

ロックバンド、Queenをキチンと(徹底的に)聴いてみたいという人のための音楽ガイドです。「何かと忙しい時代だし、全作品なんて聴くつもりはないです。手近なところでお願いしますよ」という人には、81年発売の"Greatest Hits"をオススメしておきます。あれを買って聞けばOKです(細かいことを言えば、"Greatest Hits"は日本盤、UK盤、US盤でそれぞれ収録曲が異なりますが、個人的にはどれも大差ないです。CD時代の今はUKバージョンが一番入手が楽みたいですし、あれが本家本元・本国での選曲なのであれ1枚で大丈夫です)。
(そうそう、そういえばあまりにも売れたので、Greatest HitsにはVol.2とVol.3も出ましたね。キリがないのでそっちは買わなくても大丈夫です。まあ欲しい人だけ買いましょうね。ちなみにVol.2は対象期間が81年~フレディの亡くなったバンドの終焉までが対象期間。Vol.3は、フレディ亡き後のバンドと各人のソロ活動からのチョイスです)

Queenというバンド、各メンバーについての基礎知識はここでは説明を省きます。興味のある人は各種Wikiの類いや、解説書籍で各自補足をしてください。しかし今思えば、この4人が集まったという点でも、奇跡のように思えますね(何が奇跡かは後々語ります)。

Queen (ファースト)

このアルバムのポイント。
・今聴くと全体的に重い(暗くて、テンポも遅い)。
・時代背景を受けて(発売は1973年)、全体的なアレンジがプログレ調。
・ギターがメインでピアノ曲が少ない。
・フレディ作4曲、ブライアン作4曲、ロジャー作1曲という適度なバランスと力関係。(10曲目のインスト曲は含めず)

ついでにマニアネタ。
ちなみに各種バイオ本には必ず書いてますが、諸般の事情(当時の事務所との力関係のせい)で、プロフェッショナルなスタジオながら、いわゆるスタジオの空き時間だけを利用して製作されたというのは有名な話です(ある時は真昼、また別の日は深夜など。そしてもちろん時間延長などは不可という過酷な環境)。そういう苦労話を聴いてしまうと、所々で音がポコポコしたり、音量バランスがおかしかったりするのもご愛嬌として許せますよね。
面白ネタとしては、当時のTridentスタジオの常連は、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、ポール・マッカトニー。ポールはこの時期、"Red Rose Speedway"アルバムを製作中で、スタジオを長時間予約しておさえていたけれど、全く姿を見せないことがチラホラあり、そうした時間をクイーンメンバーは大変有意義に使わせてもらったそうです。

1. "Keep Yourself Alive"

記念すべきファーストアルバムからのファーストシングル。
ブライアン作品でシングル作品にも関わらず中間部にドラムソロが入るという点からも本人たちの自信のほどが伺える。デビュー以前に"De Lane Lea"スタジオで作られたデモバージョンと比べてもギターの音色と重ね方の違い("De Lane Lea"版にはお馴染みのフェイザー(フランジャー)が入っていない上にイントロ部のギターは単独演奏に聞こえる)、そして全体の音量バランス以外はスタジオ盤と全く同じアレンジで、かなり考えられたアレンジだったことが分かる。
ただ、発表時の世間の評価は真っ二つで、本人たちの自信とは裏腹にセールスも今ひとつであり、81年に発売された(そして馬鹿みたいに売れた)"Greatest Hits"にも収録されなかったという点からも、結局は「ヒットしなかった」シングル作品という扱いが現在の評価。
ちなみに発売当時の日本語タイトルは「炎のロックンロール」。

この曲のブリッジ部で歌われる"Do you Think you're better every day?"の歌声は明らかにロジャーの声です。そこに続く"No, I just think I'm two steps nearer to my grave"の部分。これブライアンが歌っていたんですね。全く気づきませんでした。
そういうわけで、この曲は3人の歌声がソロパートで聴ける最初の曲です(ちなみに3人の歌声がソロパートで聴ける次の曲は1995年の"Made in Heaven"アルバムに収録の"Let Me Live"です)。そしてファーストアルバムの中で唯一ブライアンの声が聴けるフレーズでもあります。

なお、2011年のユニバーサル・レコードのなんと(!)「オペラ座の夜」のデラックス盤にボーナストラックとしてこの曲が入っていますが、これには次のような経緯があります。
1975年、後に「オペラ座の夜」となるニューアルバムのセッションが始まる直前にElectraレコードからの申し出に応じて、アメリカでのシングル発売用にこの"Keep Yourself Alive"が新たに再録音されています。実際にレコーディングはトライデントスタジオで1975年7月2日に行われ、録音も完了していますが、トライデント側から待ったが掛かり、法廷闘争の間にテープが紛失したという騒動があったためです(アメリカのシングル盤はアルバムのバージョンが結局使われました)。そしてこの録音テープは1991年のハリウッド・レコードのリイシュー作業中に発見されますが、その際には収録されず。結局、録音の30数年後に時系列として正しい場所(「オペラ座の夜」のユニバーサル・レコードバージョンのボーナストラック)に収録されたのです。ボーナストラックの曲名の後に"long-lost retake, July 1975"とあるのはそういうわけです。

2. "Doing All Right"

ブライアン、ロジャーが在籍していた前身バンドのスマイル時代の楽曲。美しいメロディの曲ではあるけれど、やはり小品であり、前半部と展開部の繋ぎもかなり乱暴。特筆すべきはこのアルバムの段階からブライアンの作品をフレディが歌っているという点。最初期の時代から、作者=ボーカル担当ではなく、バンド内での役割が明確に分かれている点に注意したい。
ちなみに後に発売された、"At the Beeb"(BBCのラジオ番組用に録音された2回分(全8曲)のスタジオライブ演奏)の中でも演奏されてますが、そこでは最後のメロ部をロジャーが歌っています。

2018年11月9日より、クイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」が公開されます。それに先立ち、サウンドトラックアルバムが発売されましたが、驚いたことにブライアンとロジャーが在籍していた前身バンド「Smile」名義で、この曲が収録されています。一聴して驚いたのは、ファーストアルバムのバージョンと同じ演奏で、最初の1番をいきなりロジャーが歌っていたことで「あれ?これ?なんで?どうなってるの?」とハテナ全開モードになってしまいました。
どうやら、各種コマーシャルサイトの紹介記事を読んで分かったのは、なんとこの「スマイルバージョン」。このサントラ用の新録です。
そこまでの協力というか、映画へのサポートをするというのは、ブライアンもロジャーもノリノリであって、映画の仕上がりに大変満足しているということなんでしょうねえ。いやはや、新録には本当に驚きました。

3. "Great King Rat"

ギターリフが印象的だけれどもフレディの作品。後々にも語りますが、ブライアン・メイという人は曲のアレンジの中でギターのリフやソロのメロディを実に見事に作り出す人で、フレディの作品での献身ぶりは聴いていて惚れ惚れするほどです。聞き所としてはやはり、このギターリフがフレディの作品で見事に鳴っているということでしょう。
中間部でのアコースティックギターを中心としたブレイクの繋ぎは見事ながら、その後のあれこれ(2度目のブレイク&まばらな拍手のSEなど)は、ややプログレを意識しすぎではないかと思える。終わり方も少し中途半端。

ところで1984年のThe Worksのツアーでこの曲が何故かセットリストに上がってきます。海賊盤(ブートレッグ盤)の演奏曲を見て、驚きのあまり思わず高い金を出してひどい音質のブート盤を買った人ももしかしたらおられるかもしれませんが、実はこの時の演奏は前曲の短縮版の"Stone Cold Crazy"とのメドレー演奏で、ほんの1分くらいの演奏です(曲の最後の部分だけがチョロっと演奏されてるだけ)。
ブート盤に高い金を出した自分がバカだったと涙にくれた数々の失敗が教えてくれるのは、結局「"Live Killers"だけを聴いてりゃ良かったよ」、ということですね。あれはなんだかんだ言っても名盤ですから(音は悪いけどね)。

4. "My Fairy King"

フレディ作品。フレディの耽美趣味が垣間見れる。前半の疾走感と中間部の美しいバラード部の対比が印象的。ただ考えようによっては、1曲の中にあれもこれも詰め込みすぎていて、今あらためて聴くと、少し勿体ないような気もする。サードアルバム辺りに作られていればこれは1曲ではなく、2~3曲からなるメドレーとして扱われたのではないだろうか。
アナログLP時代ではここでA面が終了。

アナログLPのB面はここから。ファーストアルバムの中でもハイライト曲であり、ファーストシングルの候補にもなっていたはずの仕上がり(74年にUS Onlyでシングルカットされている)。最初期のライブでは”Keep Yourself Alive”と共に、ショーのハイライト部で演奏されていた。流暢なメロディからもフレディ自信の作品。
(但し、元歌はフレディの前身バンド("Wreckage")の持ち歌(タイトルは"Lover")。Queenとして改めてメンバーで作り直し、フレディが歌詞を全面的に書きなおしたため、正確なクレジットを書くならば、作詞:フレディ、作曲:Queenだそうです(オフィシャル自伝本より))

案外、忘れられがちですが、この曲はずいぶん後までライブで演奏されている曲でもあります。おそらくブート(海賊盤)映像としては、最も出回っているライブ映像の一つであろう1977年のヒューストン公演でも、丸々1曲がちゃんと演奏されてますね(1977年のこのツアーは「世界に捧ぐ(News Of the World)」のツアーです)。

このヒューストン公演のライブ。Liarの最初で盛大にギターのチューニングが狂って、歌はじめのクリーントーンのアルペジオの前に、レッド・スペシャルから予備の黄色のギター(通称「イエロースペシャル)に持ち替えてますね。フレディがずいぶんと待たされている。
レッド・スペシャルとイエロースペシャルの音色の違いを体感出来る意味でも、なかなか貴重なライブだと思います。

最近のYoutubeは何でもありますね。Liarのコメントで書いた1977年のヒューストン公演の映像です。

興味深いのはギターの持ち替え作業ですね。具体的に観ていきましょう。最初はレッドスペシャルで好調に演奏が始まりますが、01:30~過ぎた辺りから音が狂いはじめ、02:04~のクリアトーンを出したところでギターの使用を諦めてスペアのギター(通称イエロースペシャル)に持ち替え作業を開始します。この間、フレディは待たされ続けて、02:26~でギターの持ち替え完了で演奏再開。その後、このまま珍しくも演奏はイエロースペシャルを使って丸々1曲が演奏されます。
それにしてもこの日のショーの前後の演奏曲を観ている人ならすぐに気づきますが、イエロースペシャルの音がショボい。なんというのか本当に微妙なんだけど音がショボいです。同じアンプ、同じエフェクタ、同じ奏者なのにこんなに音が変わるんですね。

話のついでに。
この通称「イエロースペシャル("Yellow Special")」。チューニングが安定しないという理由で、怒り心頭になったブライアンに投げつけられて、見事に破壊されます。破壊後の写真は下記のブライアンメイのオフィシャルサイトで見ることが出来ます。

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