今年3月に仮釈放。以前よりも30キロ痩せて精悍な顔つきになったホリエモンが、お金、ビジネスについて語った。
堀江貴文の「50万円あれば始められるビジネス」
儲けは後の話。好きなことをとことん
PRESIDENT 2013年7月15日号
堀江貴文 構成=村上 敬 撮影=相澤 正
brandnewmthn さん
――仮出所おめでとうございます。刑務所で過ごされて、お金に対する考え方は変わりましたか。
【堀江】またお金の話ですか。みんな、お金が好きですね。刑務所に入ったって変わらないです。そもそも刑務所に入る前からお金のことは何も考えていませんでしたから。お金なんて、どうでもよくないですか。
――達観されていますね。昔からお金には興味がなかったのですか。
【堀江】お金のことを考えなくなったのは、21~22歳ぐらいからかな。お金は制限要因にすぎないと思うんですよ。たとえばコンビニに行って何か買いたいものがあるのに、お金が足りなくて買えないのはいやですよね。そうした制限要因としてお金があるのであって、お金そのものはどうでもいい。そういう意味でいうと、僕は早いうちに解放されたので。
――お金の心配から解放されるには、ある程度の年収が必要です。堀江さんは、若いときから稼いでいたと。
【堀江】そういうことも、あんまり考えたことがない。どうしてみなさん、お金の話ばかりしたがるのかな。たぶんみんな、お金が目的化しているんですよね。だから僕のこともお金目当てだろうと決めてかかってくる。
――好きなことをやって、その結果お金がついてくるということ?
【堀江】それも違う。結果としてお金がついてくるというのも、結局はお金が目的でしょう。みんなお金のことを考えすぎです。いまは評価経済社会の時代でしょ。僕がいま使っているMacBook Airは7万円ぐらいで買えますが、中古でいいなら知人からタダでもらえるかもしれない。欲しい人とあげる人をマッチングするサイトだってある。お金に制約される状況はすごく少なくなってきているのだから、そんなにお金、お金と言わなくていいんですよ。
――著書の中で、「お金は信用を数値化したもの」と定義していました。この考え方も変わっていない?
【堀江】お金は、信用の表示形態というか、信用が顕在化したものだと思います。だからお金より信用のほうがずっと大事です。好きなことをやっていれば、自然に信用につながるじゃないですか。それで悪く思われるのだとしたら、中途半端だからでしょう。口先だけで、行動が伴ってないとかね。
――ライブドア事件で、社会的な信用をなくした部分もあると思います。ビジネスに影響は出ていますか。
【堀江】出てくる部分もあるし、出てこない部分もありますよ。僕が投資をしようと思っていた会社から、「本当は投資してほしいが、投資を受けると上場できなくなるから」と言われて、結果的にできなかったケースもあった。そういうところでは実際に影響も出ています。
――そうすると信用があればいいとは単純に言いにくい気がしますが。
【堀江】そんなことないですよ。あれでなくなっちゃうような信用は、本当の信用じゃないですから。パブリックな薄っぺらい信用はどうでもいいんです。僕にはがっちりグリップしている一定の層があって、僕はその人たちを大事にしてきたし、その人たちも応援してくれている。もともと僕は、わかってくれる人だけわかってくれればいいというスタンスでやってきました。検察がきたから今後はケアしていかなきゃいけないけど、わかってくれている人はずっとわかってくれている。それが僕のいう「信用」です。
僕は会社(旧ライブドア)に資産を引き渡したのでキャッシュはほとんど残っていなくて、ストックはものすごく少なくなった。ただ、ストックといっても、実体の資産としてのストックと、無形固定資産的なストックがある。後者のストックが信用であって、それがいま僕のフローの源泉になっている。フローの現れ方として現金という形もあるし、そうではない形もある。信用が大事というのは、そういう意味ですよ。
――フローの現れ方としては、ほかにどういうものがありますか。
【堀江】たとえば僕が事業を立ち上げると言ったら、いろんな人が「一緒にやりましょう」と言って手弁当で集まってくれたりする。堀江と一緒なら何かおもしろいことができるだろうという期待感も、ある意味、無形固定資産的なストックです。とくにライブドアで働いていた人たちはそういう思い入れが強いみたいで、いろんな話がきます。僕はせっかくだから新しい人たちとやりたいけれど、それはそれでうれしいです。
――堀江さんは美食家だと聞いています。おいしいものを食べるのにもお金はかかりますよね。
【堀江】そうですね。でもいまは出所したばかりだから、みんなけっこうおごってくれます。
――最初にハンバーガーを食べたことがネットでも話題になりました。
【堀江】そんなことが話題になるところに、いまの社会の発想の貧困さを感じるんですよね。どうでもいい話じゃないですか。こんなことに反応する社会の空気が、いやでしょうがない。だからおまえらはバカなんだよ、と言いたくなります。何を食べたかなんていうくだらないネタで喜ぶ風潮は、僕にはまったく理解できない。ハンバーガーを食べたのも、たまたまです。時間がなかったから何か買ってくるように頼んだら、マネジャーが買ってきただけ。そこに注目してどうするの、と思いますよ。
――世間に注目してほしいのは、どんなことでしょうか。
【堀江】世の中がもっとおもしろくなればいいのに、そういうニュースには反応がないから残念ですよね。最近おもしろかったのは、JR東海がリニアモーターカーの中間駅の駅舎をものすごくシンプルにしたという話。僕はすごくウケたんだけど、世間はあまり反応してない。リニア中央新幹線って、いろいろ揉めてるんですよ。本当は最短で結ぶことに意味があるのに、まずルート選定で長野市を通らなきゃいけないという話が出てきた。結局はほとんど直線のCルートになったのですが、こんどはリニアが通る飯田市の地元の人たちが、飯田駅の近くに中間駅を置けと言ってきた。僕は長野の刑務所にいたからこのニュースをよく知っていて、くだらないことを言っているなとむかついていたんです。
JR東海も地元の態度にむかついていたんでしょうね。そもそも最短が売りのリニアに中間駅を置くなんて、百害あって一利なし。それなのにぐちゃぐちゃ言われるから、JR東海は「俺たちがぜんぶお金出してつくるから文句を言うな」と言って、ほとんど無人駅みたいな超シンプルな駅舎をつくることにした。痛快じゃないですか。JR東海、最高ですよ。
――確かに一部地域の振興より、利用客のことを考えろと思います。
【堀江】地域振興は勝手にやればいいんですよ。いま世の中には、一部の人たちの利益を守るために、みんなにとって不便なものが多すぎる。医薬品のネット販売の話もそうじゃないですか。あんなものはさっさと規制緩和すればいいのに、ぐだぐだ言ってるから社会が停滞するんです。
――これから手がけようとしているビジネスも、世の中の不便さを解消していくものになるのでしょうか。
【堀江】解消というよりは、JR東海と同じように、自分たちの金でやるのだから好きなことをとことんやりたいという話ですよ。具体的にもいっぱいあります。以前からよく言っているのはキュレーション・メディア。キュレーターを集めて、キュレーターが100文字とか400文字ぐらいで今週のニュースを紹介するというメディアです。
――そのサービスは、どのような形でマネタイズするのですか。
【堀江】だからその発想がつまらないわけですよ。どうしてすぐマネタイズの話になるんですか。そこ、本当に大事ですか? お金はたいしてかかりません。堀江が新しく立ち上げるニュースメディアだったらタダで記事書いてもいいよと言ってくれる人たちがいるし、システムだって安くつくれます。サーバーはぜんぶクラウドで、クレジットカードで1時間いくらという世界だから、本当に安く済む。オフィスはいらないし、やりとりもメールやFacebookでいい。必要なのは50万円とか100万円とか、ポケットマネーの世界です。ブレークしたら、有料会員を募ってキュレーターにギャラをお支払いできると思うけど、それは先の話。まずはやってみてから考えようというのが、いまの時代です。
――ほかにどのようなビジネスを?
【堀江】キュレーションの流れでいうと、グルメサイトも考えています。20~30人がキュレーションする、本当においしい店しか載せないサイトです。ぐるなびや食べログ、最近話題のRettyも、ノイズが多すぎる。内装や値段なんてどうでもいいじゃないですか。「接客が悪い」とか、評価者がせせこましい。料理がおいしければそれでいい。だから日本最高のキュレーター10人くらい集まってもらい、本当にうまい店だけをレビューしてもらう夢のサイトです。
――どういった基準でキュレーターの方を選ばれるのですか。
【堀江】僕がいつも店のことを聞く人がいるのですが、その人と2人で、絶対にうまい店を紹介してくれる人を集めています。だから、タダでやりたいという人がきてもダメ。実際、俺にもやらせろという人が出てきて、どうやって断ろうかとめんどくさいことになっています(笑)。
すごいサイトになりますよ。コンテンツもヤバいっすよ。お店を紹介するだけでなく、ディープな企画をどんどん流しますから。この前、焼き鳥の「今井屋」やニューヨークの和食店「MEGU」を立ち上げた今井浩司さんと、アイアンシェフの黒木純さんの店「くろぎ」に行ったんです。その後に3人で飲んだのですが、今井さんが黒木さんに「今日は鮎の焼き方がいまいちだった」とダメ出しするわけ。どこがダメなのか、聞きたくありません? このトークを動画でやってもいい。絶対ウケますよ。
――既存のグルメサイトは戦々恐々としているかもしれませんね。
【堀江】それは関係ないんじゃないですか。食べログやぐるなびはディレクトリーみたいなものだから。ライバルになるのはミシュランのほう。僕はミシュランもノイズが多いと思っているから、参考にしてないけど。
――このサイトも、ポケットマネーでできますか?
【堀江】たぶん50万~60万円ですよ。だからハードルは高くない。いまだに自分で起業するのは難しいと考えている人がいるかもしれないけど、お金の面での制約はほとんどなくなった。実際、若い人たちはネットで面白いサービスを次々に送り出しています。マネタイズとか言ってる場合じゃないですよ、ほんと。
――事業以外のお金の使い方について聞かせてください。ご著書を読むと、PCを使いまわすなどして、無駄なお金を使わないそうですね。
【堀江】またお金の話ですか。本に書いてあったのも、編集者にサービスして答えてあげただけ。実際は、好きなことに好きなように使ってます。
――好きなことにお金を集中させるということですか。
【堀江】べつに絞りこむ必要はないですよね。いろんなことに興味があるんだから、優先順位はつけなくていい。効率的に使う必要があるとしたら、お金より時間でしょう。やりたいことがたくさんあるから、時間を無駄にしたくない。お金で時間を買えるのであれば惜しまず使います。たとえばスケジュール管理って、意外に時間を取られるでしょう。こういったものは丸投げしたほうがいい。
――時間の使い方を考えるのは、時間が足りないからですよね。そうすると、使えるお金が限られている人が、お金が無駄にならない使い方を考えるのも大事ではないですか。
【堀江】いや、時間は物理的に増やせないじゃないですか。誰にだって24時間だから、どう使うかを考える必要がある。でも、お金は増やせますよね。やりたいことをやるために時間効率を高め、必要ならそこにお金を使っていく。僕はお金の使い方なんてどうでもいいと思うけど、あえて何に使うべきかといったら、そこじゃないですか。
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