「異常セックス女」「魔性の女」か、無実か…世界に衝撃「アマンダ・ノックス判決」の行方

イタリア中部ペルージャで2007年、米国人元女子留学生のアマンダ・ノックス被告(26)らがルームメートの英国人女性に集団セックスを強要し、殺害したとされる「事件」がハリウッド映画になるという。異様でスキャンダラスな事件は世界のメディアをにぎわしただけでなく、1審で有罪、2審では逆転無罪となり、最高裁が今年3月、差し戻しを命じた。9月30日に始まった差し戻し審では、鑑定の結果、凶器とされたナイフから

ソフタッチ さん

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薬物吸引、集団セックス強要…喉を切り裂き殺害

 事件の経緯を振り返る。

 ノックス被告の回想録や米CNN、英ガーディアン(いずれも電子版)などによると、ノックス被告は米シアトル出身で、父母が幼いころに離婚しながら、地元のワシントン大学に進学。07年夏に1年間の予定で、ペルージャの外国人大学に留学した。

 犠牲者となったルームメートのメルディス・カーチャーさん=当時(21)は英国人留学生だった。イタリア到着1週間後には、コンピューター工学を学んでいたイタリア人のラファエル・ソレシト被告(29)と出会い、恋に落ちた。大好きなハリー・ポッターにソレシト被告が似ていたからだった。

 事件が起きたのは同年11月1日夜。ノックス被告はその日、ソレシト被告宅に宿泊。マリフアナを吸引して寝た。

翌朝、自らの家に帰ると、カーチャーさんがベッドルームで半裸の状態で47カ所も刺され、死んでいた。性的暴行も受けていたという。

 実は、海外の留学生が通う外国人大学では、マリフアナ吸引や乱交パーティーなどが頻繁に行われ、地元住民の評判はあまりよくなかった。しかも、2人は現場検証の際にキスをしたり、抱き合ったり…。捜査員の心証は極めて悪かったという。

 検察側は、2人と薬物の売人が犯人だと見立てた。薬物を摂取した上で、カーチャーさんに集団セックスを強要し、拒否するカーチャーさんを抑えつけて性的暴行を加え、行為が終わると、ナイフで何度も刺し、最後にノックス被告が喉(のど)をキッチンナイフで切り裂いたとして、3人を逮捕・起訴した。

清楚で淫らな“犯人像”

事件当時、20歳だったノックス被告は清楚(せいそ)な容姿からメディアに「天使」と表現される一方で、「セックス異常者」「危険な悪魔」などとも指摘された。スキャンダラスな事件は米国、イタリアだけでなく、世界のメディアをにぎわし、両国の外交問題にまで発展した。

 売人が罪を認めたこともあって、ノックス、ソレシト両被告に対しても、検察の主張が認められ、09年12月の1審ではノックス被告が懲役26年、ソレシト被告が同25年とそれぞれ有罪判決が下され、4年間収監された。

 だが、事件はこれで終わらなかった。

 両被告の上訴を受けて行われた2審では11年10月、凶器に付着していた血液のDNA鑑定に欠陥があるとして、殺人罪について逆転無罪。ノックス被告は帰国し、ワシントン大学に復学した。

しかし今年3月、イタリア最高裁が2審判決を破棄し、差し戻しを命じた。凶器の再鑑定を命じたのだ。

男を破滅させる魔性の女?

ロイター通信などによると、差し戻し審が始まった後、ノックス被告は10月、イタリア国営放送のトーク番組のインタビューに応じ、心境を語っている。

 「私は検察側が描くファム・ファタル(男を破滅させる魔性の女)ではありません。私を悪人に仕立て、悪人の仮面をかぶせたが、そんな人は存在しません」

 「セックス異常者」などの表現だけでなく、検察側は裁判を通じ、ノックス被告のことを「ファム・ファタル」などとあしざまに言った。また、メディアは「Foxy Knox(悪賢いノックス)」とも表現した。

 これはノックス被告が幼少のころ、サッカーに興じ、高い技術で男の子たちを翻弄したためにつけられた異名だ。男たちを手玉に取り、薬物に溺れ、ルームメートにとどめを刺した危険な女…。ノックス被告はそれらが検察やメディアによって“創られた仮面”だと言いたかったのだ。

 9月30日の差し戻し審開廷を前に、同20日に応じた米NBCのインタビューでは、「裁判での私は本当の私ではない」「私は無実の罪で刑務所に入れられた」と訴えた。

 一方で、事件の影響で心的外傷後ストレス障害(PTSD)や、悪夢にさいなまれるフラッシュバックに悩まされていると告白しつつ、こうも述べている。

 「(差し戻し審で)最悪のシナリオをいつも考えている。刑務所生活に戻り、すべてを失い、取り戻した希望を失うことを。それが怖い。すべてが危うくなる」

「真実」はいったい…

 イタリアのメディアによると、差し戻し審では、これまでの裁判では、刃物の柄の部分にノックス被告、刃の部分にカーチャーさんのDNAがそれぞれ検出された凶器のナイフを再鑑定した結果、ノックス被告のDNAだけを検出した。カーチャーさんの血液を検出しなかった。ノックス被告の弁護士は「刃物が凶器でない可能性が一層高まった」としている。

 また、カーチャーさんの下着にソレシト被告のDNAが付着されていたとの鑑定結果も疑問視されているとされる。

 関西でも、森永・グリコ事件や朝日新聞阪神支局襲撃事件を始め、最近では平成19年の加古川女児刺殺事件、22年の神戸高校生刺殺事件など、未解決のまま真実が見えぬ事件は少なくない。

「アマンダ・ノックス」事件の真実はいったいどこにあるのか。両被告が犯人ではないとすると、麻薬の売人の男による単独犯なのか。検察側も、裁判所もこれまでの審理の中で、「複数犯」の可能性は指摘している。

 英ガーディアン(電子版)は、イタリアのマフィアの一員で、現在収監中の男が「犯人は弟。複数でカーチャーさん宅に強盗に入り、被害者が騒いだので殺した」などとする“告白”をしたと伝えた。この男は性転換のため金品を求めているとされ、真偽のほどは怪しいが、こうした報道が出てくるほど、事件はいまだに謎に満ちている。

 差し戻し審は12月中旬ごろに結審する見込みだという。

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