「そしてある日、ふっと居なくなったんだ。
 じぃちゃんもみんなと色々と探したんだよ。
 そしたら…山の中の高い木のふもとで、友達は死んでた。
 木の幹には、足掛けに削った跡がてんてんと付いていてね。
 友達は自分で木に上って、足を滑らせて落ちたんだ。ばかなやつだよ。

 坊、世の中には、人が入ってはいけない場所っていうのがあるんだ。
 それは怖い場所だ。
 坊だったら、タンスの上もその場所だよ。

 落ちるのは怖いだろ。そういうことだよ。
 じぃちゃんの友達には、怖い場所が見分けられなかったんだ」

「怖いね。ばちがあたったのかな」

「いいや、怖いのはここからさ。
 友達が死んでから、村の中のひとたちが次々に、
 『天狗を見た』って言い出したんだ。
 
 じぃちゃんは、『あれは友達のでまかせだ』と言ったんだけどね。
 『友達が天狗の怒りに触れた』『祟りだ』『呪いだ』と、
 皆は自分達でどんどん不安をあおっていった。
 
 夜通しで見張りの火まで焚いたんだ。
 皆が顔をあわせるたびに天狗の話をするので、村の中がじめじめしていた」