積み立て投資サービス「いつかはゆかし」の広告で知られるアブラハム・プライベートバンク(東京都港区)が金融商品取引法に違反していたとして、証券取引等監視委員会は2013年10月3日、同社を行政処分するように金融庁に勧告した。
同社が金融商品販売業者の登録をしないまま、ファンド業者から事実上の手数料を受け取っていた、というのが主な理由だ。
アブラハム社は勧告を受け入れるとみられるが、プレスリリースでは「法令遵守を徹底し、ビジネスモデル特許を申請していた」といった、事業内容を正当化するともとれる態度に終始している。
■「中立」うたいながら特定ファンドを勧める?
証券取引等監視委員会が指摘したポイントは大きく3つ。
1つ目が、上記の無登録の件だ。アブラハム社は投資顧問契約を結んでいた顧客に対して、中立的な立場でアドバイスを行っていると主張していたが、実際は特定の海外ファンドを推薦。アブラハム社の取締役が設立したバージン諸島の法人「STI」や親会社の「アブラハム・グループ・ホールディングス」を迂回して、海外ファンドの発行者から購入額に応じた報酬を受け取っていた。これが、事実上の販売手数料だと判断された。
2つ目が、事実と異なる内容の広告。例えばアブラハム社はウェブサイトの広告で「金融機関や運用会社から販売手数料はもらっていません」とうたっていたが、1つ目の問題点で指摘されているように、実際には事実上の販売手数料を受け取っていた。それ以外にも、広告では「手数料は業界最安値」と記載されていたが、証券取引等監視委員会は、アブラハム社が同社よりも安い手数料のサービスがあることを認識していたにもかかわらず「あえて当該他社サービスを比較対象に含めず、それ以外の事業者との間でのみ手数料を比較」したと指摘している。
■山本一郎氏や「ファクタ」が早くから問題を指摘していた
3つ目が、顧客に財産上の利益を提供していたことだ。アブラハム社は顧客から「過去実績から想定された投資実績に遠く及ばない」といった理由で助言報酬の免除を要求され、2年分の報酬約940万円を全額免除した。勧告では、この行為も違法だと指摘している。
1つ目と2つ目については、ブロガーの山本一郎氏が13年2月の段階で大筋では指摘していたし、1つ目については、経済誌「ファクタ」も13年4月号で「『いつかはゆかし』の化けの皮」と題する記事で指摘していた。
■ビジネスモデル特許申請を根拠に事業を正当化
2013年10月3日の勧告後にアブラハム社が発表した報道資料は、「皆様にはご心配をお掛けいたしましたことを深くお詫び申し上げます」と一応陳謝はしているものの、内容はよくわからず、投資家も理解に苦しむ内容だ。例えば、発表文では、
「投資助言会社という中立的な立場で、『個人投資家の海外ファンドへの直接投資をサポートする』という日本初の新しいビジネスモデルで業務を行っておりました」
と、自らの中立性を引き続き主張し、中立性を否定している勧告と噛み合っていない。また、勧告を受け入れるとも読み取れるが、その一方で自社の法令違反を認めないばかりか、「業務改善」をうたっておきながら、どの点を改善するかは不明だ。さらに、特許を申請すると何らかの正当性を主張できるとも考えているようで、独自のビジネスモデルを理解できない当局がおかしいと言わんばかりの内容だ。
「法令遵守を徹底し、ビジネスモデル特許を申請していたにも関わらず、誠に残念ながら、弊社のビジネスモデルに関して当局と見解が異なりましたので、この度の検査結果を厳粛に受け止め、改めて速やかに業務改善を行い、一層の内部管理体制の強化に努める所存でございます。またその他の指摘についても真摯に受け止め、業務改善して参ります」
また、太字で、
「弊社お客様の資産に関しては、AIJ事件やMRI事件とは異なり、海外金融機関にて健全に運用されております」
と、ファンドの実態があることを強調している。
金融庁はアブラハム社に対して業務停止命令を出す方針で、近く同社の主張を聞く「聴聞」を開いたうえで正式に処分内容を決定する。