<「ヤクザ」に銀行が融資する国>
「日本の銀行が『ヤクザ』に融資していたということか」――。みずほ銀の暴力団向け融資が発覚すると、東京に拠点を持つある外資系銀行の幹部に海外の上司からこう問い合わせが入った。
FATFの勧告では、反社勢力であるマフィアやテロ組織の構成員はもちろん、そうした組織とのつながりが疑われる顧客は「リスクの高い顧客」と位置付け、銀行に対し事実上取引を禁じたり、厳重な注意を求めている。こうした顧客取引に神経質になっている海外金融機関からみると、間接的にせよ暴力団に資金を提供した日本のメガバンクの不祥事はことさらに異様に映ったのだろう、と同外資系銀行幹部は話す。
今回発覚したみずほ銀のケースは提携先の信販会社を経由しての融資だが、信販会社のデータベースには借り手が暴力団関係者として登録されていなかったため、実態を把握できず、最終的に同行との融資契約が成立した。その後、銀行の審査システムで改めてスクリーニングした結果、その顧客が暴力団関係者であることを把握したという。
金融庁によると、こうした反社勢力への融資件数は約230件、総額2億円に上ったが、担当役員がその状況を2年以上も放置したという。同庁は、みずほ銀行がこうした組織との融資取引を防止し、関係解消のための抜本的対策を講じなかったなどとして、業務改善命令を出した。
銀行関係者の間では、信販会社を経由した顧客に対する融資には、常にこうしたリスクがあるという見方が多い。 麻生太郎財務・金融担当相は1日の閣議後会見で、「(みずほ以外の)その他の金融機関も気付かずにそうなって(反社勢力に融資して)いる可能性もなくはない」と指摘した。
大手銀行は自ら構築した審査システムで反社勢力などの「不法属性」を見分けられるが、その仕組みは必ずしも規模の小さな地域金融機関で整っているわけではない。「日本の金融業界全体で、スクリーニングが機能しているかどうかをきちんと検証するべきだ」と、ある大手銀のコンプライアンス担当役員は言う。
<国際金融市場での業務に支障も>
日本の対策達成率は48%─。FATFは2008年に実施した審査で、日本の取り組みに厳しく落第点をつけた。これについては「FATFの勧告は、各国の経済事情を反映していない。しかも、対策を法律に盛り込んでいるかどうかだけを検証しており、実際の取り組みを評価していない」(政府関係者)という批判もある。
しかし、同機関が各国に対して示す勧告は、グローバルな金融取引に参加する上で守るべき対策を示しており、事実上の拘束力を伴っている。評価があまりに低ければ、反社会的勢力に甘い国というブラックリストにも載りかねない。「国際金融市場で、この金融機関とは取引できないという評価をもらうようになると業務に支障が出かねない」と懸念する大手銀行首脳もいる。