経済対策による成長押し上げ効果の大部分は、投資減税や法人減税、公共投資といっ
た企業向け支援であり、家計への増税負担の緩和策は低所得者対策や住宅取得者支援を除
き特にない。「日本経済の潜在成長率が、労働人口の減少によって一貫して下押しされて
おり、人口動態の問題は早期には解決しにくい点や、税収の構成をみると、法人税の負担
が高く、個人所得と消費の負担が低い点の2つから考えると、企業支援型の政策に偏って
いることは理にかなっている」(西岡氏)と一定の評価もある。
とはいえ、来年度について家計にとって増税の価格転嫁分は確実に物価高となり、実
質所得が減少することになる。消費の落ち込みは反動減に加えて所得のマイナス効果も発
生する。今年度は異例のパターンとして消費が成長のけん引役となり、物価への波及も見
えてきただけに、デフレ脱却の視点からは、この流れに水を差さない配慮も必要だ。
安倍首相は復興法人減税や法人税実効税率の引き下げにより賃金への波及を促したい
考えだが、「政労使協議で賃金の持続的な引き上げに向けた合意ができるかどうかが焦点
」(山田氏)となる。ただ、個別に賃上げが行われても、日本経済全体では賃金底上げは
相当難しいとみられている。
日本の労働市場では「賃金の高い製造業から低い非製造業への雇用シフトが生じてい
るため、平均値としては上がりにくい状況」(菅野氏)が生まれている。
賃金への波及を促すために、対策では給与総額2%増を実施した企業への賃上げ促進
税制の条件について「過去平均的な雇用者数の伸び率(景気が良いときに1%弱)や、デ
フレ脱却が道半ばである現状から考えると、使いやすい政策に変わった」(西岡氏)と一
定の評価はあるが、「初期段階としてさらに緩和するなど追加対策が必要」(丸山氏)と
の指摘もある。
賃金上昇が実現しなければ、持続的な物価上昇もままならない。対策による物価への
影響について、エコノミストの試算では、0.1─0.2%程度の押し上げ効果しかない
と予想されている。対策がなかった場合よりも成長率は押し上げられても、潜在成長率も
自体も上昇し、需給ギャップはさほど縮小しない可能性がある。このため物価押し上げへ
の影響は限定的にならざるを得ない。