安倍晋三首相は1日、来春からの消費税率引き上げとともに、5兆円規模の経済対策の実施を表明、財政再建とデフレ脱却という相反する政策課題の達成に向け、自らの道筋を示した。しかし、成長重視の名目で膨張した経済対策については、財政再建を置き去りにしたとの批判も根強い。「絆(きずな)増税」と呼ばれる復興特別法人税の前倒し廃止も国会紛糾の原因になりかねず、官邸主導で強引に進めた17年ぶりの消費増税は様々な火種を残す形となった。
<「10%」見据えた財務省の妥協>
財政再建の切り札として消費増税の実施を探ってきた安倍政権にとって、最大の懸念は景気が落ち込み、デフレ脱却の機運が削がれることだった。そのため、今回の経済対策作りは、施策の内容よりもまず歳出規模が先行する異例の展開となった。消費税率を3%引き上げても、2%分(約5兆円)は経済対策で国民に還元し、実質1%上げの経済ショックにとどめる、というのが官邸の描いたシナリオだ。通常は施策を積み上げた結果として決まる経済対策の規模は、官邸主導で早々に「5兆円程度」となった。
安倍首相が、リフレ派ブレーンの意見を念頭に置いていたことは間違いない。デフレ脱却の腰折れを心配する本田悦朗・内閣官房参与(静岡県立大学教授)らリフレ派ブレーンからは、毎年1%ずつの小刻みな消費税上げを求める声が相次いだ。「総理がこれなら大丈夫と自信を持ったら(消費税引き上げを)予定通りやるだろう。対策をみてまだ足りないというのであれば指示があるだろうし、それができなければ判断も変わってくる」。甘利明経済再生担当相は、首相が経済対策とりまとめを指示した10日の会見でこう語り、大型経済政策に難色を示す財務省をけん制した。
大規模な景気てこ入れ策を求める官邸の動きに、財務省が譲歩したのにはそれなりの理由がある。麻生太郎財務相も、前年度剰余金などの一般会計分と復興特会の使い残しなどで5兆円程度の財源が確保できると応じ、追加国債発行を回避できるぎりぎりの規模が早々に決まったという。「消費税8%で失敗すれば、10%に引き上げる道が遠のく」(政府筋)。10%までの引き上げを前提に、財務省は社会保障制度の維持・拡充を目指しており、それは譲れない一線だった。
<法人実効税率下げへの布石、15年度からにはハードル>
デフレ脱却の芽を摘まず、経済成長と財政再建を達成する方途として、官邸は法人税の実効税率引き下げの実現にこだわった。消費税引き上げ前の駆け込み需要には反動減がある。それを緩和し経済成長を軌道に乗せるには、前向きの成長エンジンが不可欠と判断。自民、公明両党は復興特別法人税の1年前倒し廃止を検討することで合意し、実質的な税率下げに道を開いた。
両党は与党税制改正大綱に実効税率引き下げについて「速やかな検討開始」を盛り込んだ。自民党公約の「法人税の思い切った減税」からさらに踏み込んで、法人実効税率を明記することで税率引き下げの方向性を鮮明にした。
しかし、法人税の実効税率引き下げがすんなりと実施されるという保証はまだない。首相周辺からは2015年度からの実現を期待する声も聞こえるが、実施時期は未定のままだ。消費税率を10%に引き上げる予定の15年10月と時期が重なれば、庶民に増税する一方で企業を優遇する、との批判が再燃することは必至。与党税調関係者には「早くても16年度以降」との見方も少なくない。