法人税については、与党税調も財務省も税率引き下げだけを実施する状況は想定していない。与党税制改正大綱は「課税ベースの拡大や他税目での増収策」が必要と指摘、財源確保抜きには税率の引き下げは困難としている。

<絆増税の廃止検討、国会で紛糾も>

大型景気対策を求める官邸とのギリギリの交渉のなかで、財務省は「消費税の引き上げと法人実効税率引き下げ阻止の2つだけは譲らなかった」とある政府筋は振り返る。経済対策では、双方の妥協の産物として、復興特別法人税の1年前倒し廃止検討が大きな目玉になった。しかし、その判断には自民党内からも批判が出ており、15日召集の臨時国会での火種になりそうだ。

「東日本大震災からの復興のための増税は、個人も企業も連帯して負担を分かち合うことで痛みを共有した絆(きずな)増税だ」とある自民党閣僚経験者は語る。「個人が25年間、所得増税を付加されるのに、法人が『一抜け』することはありえない。政治的には筋悪だ」。特に復興予算の拡充が必要になった場合、「復興増税の延長の選択肢をなくしてしまった政治的なツケは大きい」とも手厳しい。

復興特別法人税の前倒し廃止には、早々に一任を取り付けた自民党内からだけでなく、公明党内でも不満が強い。同党は「賃金上昇の確約がない企業優遇では国民、まして被災地に説明がつかない」と最後まで抵抗した。

安倍首相にとっての課題はこれに終わらない。かつて消費税の導入とその後の税率引き上げで、歴代3人の首相が政権の座から転落した。65%という高い内閣支持率を背景に、安倍首相には、増税決断にもかかわらず、長期安定政権への期待がかかる。しかし、次の10%への増税を実現するうえで、その最終判断時期をどう探るか、経済対策策定の過程で置き去りにしてきた財政再建への取り組み姿勢が改めて問われる局面もありうる。

15年度からの法人税の恒久減税に踏み込めば、国際公約の財政健全化目標達成は一気に遠のく。経済成長に伴う税収増が期待されるものの、「成長に伴う金利上昇で国債費は膨らみ、歳出のほうがより増える。財政再建は、デフレの時以上にインフレの時のほうが難しい」(政府筋)。経済対策の効果をどう判断するか、「対策のコストはゼロではない。将来の社会保障がそれだけで窮屈になる」(吉川洋・東京大学教授)と疑問を投げかける声も少なくない。