政府が1日に決定した5兆円規模の経済対策を踏まえ、日銀は10月31日の「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)公表に向け、経済・物価見通しの上方修正を視野に議論を開始する可能性が大きい。景気が全体として日銀の中心シナリオに沿って推移している中で、経済・物価の押し上げ要因となる対策効果を新たに織り込むためだ。

政府が決定した経済対策は、来年4月の消費増税による景気への悪影響を緩和することが狙い。企業に設備投資や賃上げを促す減税措置のほか、低所得者向けの現金給付、公共事業などを柱に総額は5兆円規模となる。

日銀は、毎年4月と10月の年2回、先行きの経済・物価の見通しを示した展望リポートを公表しており、今年4月の同リポートにおいても消費税率を来年4月に3%、2015年10月に2%、それぞれ引き上げることを実質国内総生産(GDP)と消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の見通しに織り込んでいる。

これまでのところ堅調な内需を中心に景気は日銀の見通しに沿って推移していると判断しており、先行きも緩やかに回復を続けると見込んでいる。1日公表された9月日銀短観でも企業マインドの改善継続が確認されるとともに、売り上げ・収益計画が上方修正されるなどシナリオの実現に自信を深めている可能性が大きい。

景気が見通しに沿って推移する中で、10月末に公表する展望リポートには、政府が打ち出した5兆円規模の経済対策効果が新たに追加されることになり、2014年度以降の経済・物価見通しは「上方修正となるがい然性が高い」(第一生命経済研究所・主席エコノミストの熊野英生氏)とみられている。
下振れリスクは、4月展望リポート時に比べて「やや弱め」(黒田東彦総裁)に推移している外需だが、現時点で日銀は、堅調な内需が補っているとともに、海外経済自体も先行き「次第に持ち直していく」(同)と判断している。リスクが顕在化しない限り、見通しを大きく下方修正する要因にはならない見込みだ。

展望リポートに向けた日銀の具体的な点検作業は、これから着手するとみられるが、現在はプラス1.3%(政策委員見通しの中央値)と見込んでいる2014年度の実質GDPの前年比上昇率が1%台半ばに引き上げられる可能性がある。
物価についても、対策は需給ギャップの改善を通じた押し上げ要因。需給ギャップ改善が物価上昇に反映されるにはタイムラグを伴うが、現在は同プラス1.9%(消費増税の影響除く)を見込んでいる2015年度のCPI見通しが2%に届く可能性もある。

  ただ、日銀が掲げる2%の物価安定目標の実現には引き続き不確実性が大きい。民間調査機関の試算では2015年度のCPI上昇率は平均1%程度で、日銀の見通しと大きくかい離している。
日銀も物価安定目標の実現には需給ギャップの改善に加え、予想インフレ率の引き上げが不可欠としている。そのカギを握るのは今後の賃上げ動向だが、来年の春闘に向け、議論が本格化するのはこれからだ。