大和証券グループ本社は現在65歳までとしている雇用延長を、「70歳まで」に引き上げる。個人向け営業職を対象に、2013年10月から導入する。
希望する社員全員が65歳まで働けるよう企業に義務付けた改正高年齢者雇用安定法が4月に施行されたのを受けて、定年を65歳に延長したり、65歳までの再雇用制度を導入したりする企業が増えているが、70歳まで継続雇用するケースは珍しい。
■ベテランと机を並べて、若手社員を育成
大和証券グループ本社によると、「70歳雇用」の対象になるのは大和証券の本支店に約4000人いる個人営業職で、グループ人員の約3割にあたる。これまでも希望者については65歳まで継続雇用してきたが、10月からは上限を「70歳まで」とする。
継続雇用時の賃金体系は、月々は60歳以降、現役時から3割程度減るものの、賞与は変わらない。経験が豊かな人材を活用し、個人投資家の確保や若手社員の育成に役立てるのが狙い。
同社は「ベテランのもつ経験やノウハウを引き続き生かしてもらいながら、チューター専門ではないですが、若手と机を並べるなかで育成面でも力を発揮してもらいたい」と話す。
証券会社は、2014年1月から始まる少額投資非課税制度(NISA)の口座獲得競争が激しくなっており、個人投資家の囲い込みに躍起になっている。支店では営業担当者にファンの顧客がついているケースもあり、顧客の繋ぎとめとスムーズな営業活動を期待する。
厚生労働省の「高齢者の雇用状況」(2012年版)によると、全国の企業14万367社(常時雇用者が31人以上)のうち、希望者全員が65歳まで働ける企業の割合は48.8%(6万8547社)、70歳以上まで働ける企業は18.3%(2万5675社)だった。
高齢者を継続雇用する企業は年々増えているものの、「65歳まで」「70歳以上」ともに大企業(従業員301人以上の規模)のほうが少なかった。
高齢・障害・求職者雇用支援機構は、大和証券のケースはまだ珍しいとしながらも、「4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されたこともあって、今年以降、(70歳までの雇用延長は)増えてくるでしょう」とみている。
■高齢者雇用「仕事を行う姿勢や内容が向上する」
厚生労働省によると、65歳以上人口の割合は23.3%(2011年10月1日現在)。少子高齢化の進行で、今後ますます労働力人口の減少が深刻化することが見込まれる。
また、年金の財源不足の問題から、厚生年金の受給開始年齢が2013年度から25年度(女性は5年遅れ)までに60歳から65歳に引き上げられるなか、さらなる年金受給開始年齢の引き上げがくすぶってもいる。
そうした中で、厚労省は「高齢者の就労意欲と経験や技能を生かし、年齢にかかわりなく働くことのできる職場づくりを進めることが、ますます重要になっていきます」と意気込む。
高齢・障害・求職者雇用支援機構が70歳まで働ける企業をまとめた「70歳いきいき企業100選」(2012年版)では、食品加工業や飲食店、病院、タクシー会社、清掃・ビルメンテナンス、縫製業などで70歳定年制や定年を設けていない企業が紹介されている。
たとえば、82歳(正社員)と72歳(パート)が勤務する岡山県の清掃業者は、「休みが少なく、遅刻するようなこともない。仕事を行う姿勢や内容が向上する」と高齢者雇用のメリットを指摘。また、73歳と71歳が正社員として勤務する京都の縫製業者は、「既製服のリフォームやリメイクの知識や技術が年齢とともに積み重ねられていく」と評価している。
高齢者雇用の場合、非正規社員での雇用が多いが、中小企業では専門的な知識を必要とする職場や技術職、熟練を要する、いわゆる職人肌の社員が「正社員」として活躍している企業も少なくない。