新型コロナワクチンの試験や開発・製造にヒトの胎児細胞が使われているのは事実だ。これらの細胞は30年以上前に行われた数件の選択的中絶から得られたもので、以来、実験室で培養されている。同じ細胞株は、私たちが日常的に使っているアセトアミノフェン、イブプロフェン、アスピリンなどの医薬品の試験や研究のほか、アルツハイマー病や高血圧症の治療の研究にも使用されている。

「私たちの命を救ってくれる医薬品やワクチンを開発するために胎児細胞株がどれほど重要な役割を果たしているのか、多くの人は知りません」と米ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターの感染症専門医アメッシュ・アダルジャ氏は話す。「新型コロナワクチンの開発に使用されているのは特別なことではありません」

ウイルスは細菌と異なり、感染した宿主細胞の中でしか成長・増殖できない。ワクチンは通常、弱毒化や不活化したウイルス、あるいはウイルスの重要なパーツや遺伝子を少量投与することで、病気を引き起こすことなく宿主の体に病原体を予習させている。こうすることで、免疫系は特定のウイルスについて記憶し、将来同じウイルスに遭遇したときにどのように破壊するかを覚えておくことができる。

したがって、製薬会社がワクチンを大量生産するには、ウイルスの成分を大量に作る方法が必要だ。

例えば、毎年製造されるインフルエンザワクチンは、ニワトリの受精卵を宿主としてインフルエンザウイルスを増殖させている。しかしワクチンメーカーは、ウイルスを哺乳類の細胞で培養することを好んでいる。主な理由は、ウイルスの突然変異を防ぎ、大規模生産がしやすいからだ。