コロナウイルスによるADEは、ウイルスのスパイク (S) タンパク質に対する抗体により促進されると考えられる[10][24][22][25][26][27]。この現象はネコ伝染性腹膜炎ウイルス(英語版)等のα-コロナウイルス[26][25][28]の他、SARS-CoV-1[22][29][30][31][21][11]やMERS-CoV[23]等のβ-コロナウイルスでも観察される。これまでの処、ウイルスの他の部位に結合した抗体ではこのような作用は無く、スパイクタンパク質に抗体が結合した場合にのみ、食作用によりFcγRII経由で免疫細胞内に取り込まれ、ウイルス粒子が分解されずに複製され始める。スパイクに抗体を持つ血清はヒト単球由来マクロファージへのSARS-CoVの感染を増加させる[24]。SARSウイルスのヒト免疫優性エピトープ(ヒト免疫が抗体を作りやすい部位)はヒト以外の霊長類では増強作用と中和作用の両方を示す

但し、マウスをベクター構築をエンコードするNタンパク質で事前免疫すると、SARS-CoV-1の感染時に重度の肺炎が促進される[32][33]。このワクチン誘発性肺炎は恐らくADEと関係がある。SARS-CoVやMERS-CoV、SARS-CoV-2のNタンパク質は、補体活性化経路に関与するセリンプロテアーゼMASP-2に結合出来る事が示されている。この結合はタンパク質誘発性の補体過剰活性化を引き起こす。マウスでこの現象が起こるという事は、ヒトでも同様の現象が起こり得る事を示している[34]。Nタンパク質の一部(115-123)はMASP-2と直接相互作用する[34]。しかし、Nタンパク質は検出可能量のSARS-CoV中和抗体産生の切っ掛けとはならなかった為[35]、ADEとの関連は非常に薄いと考えられる。