この好人物をして晩年を飾らしむることは当人の欣びばかりではなく、後進に何程良い影響を遺すか知れないのである。しかし、このごろのような作品に成って来ては最早駄目である。何の取柄も無くなってしまったからである。往年の彼の人気に比しては、今日彼のファンも無きに等しき状態ではなかろうか。度重なる彼の展示会に生気の消失し尽した観があるのは、彼自身が認めて居るはずである。乾坤一擲今後に処せと言いたい所だが最早駄目である。最初から世間に誤られた人気役者の末路と見るべきである。残念ながら私は彼をここに見捨てねばならぬ。と言うても、絶望視されている作陶人は寛次郎翁一人ではない。六兵衛父子をはじめ、有名作陶家の総てである。敢えて君一人を見限っているのではない。

出典 『河井寛次郎近作展の感想』