何故かその時は不思議とも怖いとも思わず、普通に返事をした。
「んー、火の番をしてる」
相手の正体は何者なのか、何でこんな時間にこんな場所に居るのか。
そういった類いの疑問がまったく頭に浮かばなかった。
先程まではシャンと起きていた筈なのに、
寝惚けた時のように思考が上手く働かなかったという。
ぼんやりと、俺寝惚けているのかな、
と考えているうち、また話しかけられた。
「その火が消えたらお前さんどうする?」
「んー、消えないよ」
「こんな山ン中じゃ、一寸先も見えない真っ暗闇だろうな」
「んー、この火が消えちゃったら、そうなるだろうね」
「闇は深いぞ。中に何が潜んでいるかわかったもんじゃないね」
「んー、暗いのは怖いよ。だから火の番をしなくちゃね」