”そうした誤った報道を明らかにするため、奥田院長自らが立ち上がり、訴訟を起こしているという話も聞きましたが。”

『当時からずっと、大学側から根も葉もない噂が流されることが多くなりました。私が学生にお金を要求したとか、自ら望んで実娘に学位を審査したなど、事実とは異なる話を持ち出した。私はこれらの嘘は許せません。だからちゃんと裁判をして、白黒はっきりさせたかったんです。そして2年ほど前に訴訟を起こし、結果、裁判所はこうした話に根拠がないと明確に言ってくれました。とてもほっとした思いですよ。』

”横浜市立大学の職を退任後、どのような経緯で現在の奥田内科設立に至りますか。”

『私には野口英世ともう一人、尊敬する人物がいます。アルベルト・シュバイツァーという方です。もともとは科学者・芸術家として活躍した人なのですが、医師として熱帯医療に貢献し、ノーベル賞を受賞しました。私もそういう人生に共感し、いずれは熱帯医学や老人医学、地域医療に携わっていきたいと思っていました。
 そして横浜市立大学を出た後に愛知県豊橋市に移り、長寿医学研究所の所長を3年ほど勤めました。そこは大病院の付属研究室でもあったので、患者の傍らで老人医学に携わることが出来ると思ったのです。そして主に、アルツハイマーのワクチン開発に従事しました。その後、奥田内科を設立しました。』

”高齢化が進む中で、奥田院長のような素晴らしいキャリアを持つ医師が、老人医学に携わることは非常に意義のあることですね。”

『世の中には寂しい思いをしているお年寄りがたくさんいるんですよ。私は地域医療や老人医学に貢献するため、2年前に奥田内科を設立していますが、この近辺にも団地で一人寂しく暮らしている方がたくさんおられます。そして私は、お年寄りの方に向けてこういうんです。「家でテレビを見ているばかりでは駄目ですよ。ちゃんとお化粧をして、自分の足で歩いて、私や友人たちとお話しましょう。これからも良いことがたくさんあるよ。生きてこそなんぼ」。そうやって声を掛けるだけで、ニコニコと笑ってくださいます。私は複数の老人ホームにも定期的に出向いていますが、お話をするだけで喜んでくださるお年寄りの方がたくさんいます。そういう笑顔を見ると私も嬉しいですし、それだけでも大きな価値があると思っています。だからこそ、老人医学の大切さを伝え、多くの人を助けるワクチンの研究も続けていきたい。そのために私も100歳まで頑張るから、お婆ちゃんも一緒に長生きしよう、そう思うんですよ。』

Kenji Okuda

奥田内科院長。1971年横浜市立大学医学部卒業。1976年よりワシントン大学遺伝学教室兼任Research Associateとして勤務後、メーヨー医科大学、ミネソタ州立大学、ハーバード大学のAssistant Professorを歴任。1983年に横浜市立大学教授、医学部長・副学長などを兼任しながら、今日まで数々の論文を発表している。奥田内科設立後は地域医療や老人医学にも従事し、活躍の場は多岐にわたる。