遺言3
				 
			
もちろんこれを撮ったときKは生きていたわけだが、それから半年後 
本当にKは死んでしまった。クライミング中の滑落による事故死で、 
クライミング仲間によると、通常、もし落ちた場合でも大丈夫なように 
下には安全マットを敷いて登るのだが、このときは、その落下予想地点 
から大きく外れて落下したために事故を防ぎきれなかったのだそうだ。 
通夜、告別式ともに悲壮なものだった。 
泣き叫ぶKの奥さんと娘。俺も信じられない思いだった。まさかあのKが。 
一週間が過ぎたときに、俺は例のビデオをKの家族に 
見せることにした。さすがに落ち着きを取り戻していたKの家族は 
俺がKのメッセージビデオがあるといったら是非見せて欲しいと言って来たので 
ちょうど初七日の法要があるときに、親族の前で見せることになった。 
俺がDVDを取り出した時点で、すでに泣き始める親族。 
「これも供養になりますから、是非見てあげてください」とDVDをセットし、 
再生した。
ヴーーーという音とともに、真っ暗な画面が10秒ほど続く。 
あれ?撮影に失敗していたのか?と思った瞬間、真っ暗な中に 
突然Kの姿が浮かび上がり、喋り始めた。 
あれ、俺の部屋で撮ったはずなんだが、こんなに暗かったか? 
