アジア地域で、独立系調査会社が足場固めを始めている。米国で過去10年に規制導入が進んで銀行とアナリストの利益相反に終止符が打たれたため、西側諸国の調査業界は既に成熟の域にある。金融危機を契機に投資銀行が調査部門を縮小する中、独立して株式の銘柄選定における自らの知識と経験を売り物にしようとするアナリストが増えているのだ。

投資銀行やヘッジファンドに長年務めた経験を持つポール・シュルテ氏も独立を決めた。「自分たちは全く違う世界にいる。この4年間に投資銀行で調査部門が終わりを迎えたことが見えていないなら単なる愚か者だ」と話す。

銀行は取引の減少、顧客の流出、自己勘定取引規制などがなお圧力となっている。そのため調査部門の人員や報酬は減り、キャリアアップの機会も減少した。シュルテ氏にはこれが専門家としての価値や生活の質への疑念の高まりを示していると映る。

「金融機関に身を置けば基本的な部分で利益相反がある。独立しているふりをするのはやめよう」と述べた。

シュルテ氏は最近、銀行に勤務していたときよりも「売り」推奨を恐れなくなった。今は約半数の投資判断が「売り」で、銀行時代に自分が率いていたチームでは売り推奨は10分の1以下だった。

銀行の調査部門のアナリストは企業に甘いと以前から批判を浴びてきた。これに対して独立系のアナリストはより厳しい目を持ち、売りを推奨し、顧客がポジションをショートにしたり、経営が悪化した企業を避けるのを手助けできる。

アジアでの独立系アナリストの浸透は緩やかで黒字化したところは少ないが、流れ自体ははっきりしている。

コンサルタント会社のインテグリティ・リサーチ・アソシエーツによると、アジアの独立系調査会社へのコミッション支払い額は2009年から40%増えて2億ドルとなった。一方、主に投資銀行が支払いの対象となるグローバル・エクイティ・コミッションは21%減少して277億ドルとなった。

<成長産業>

シュルテ氏は4月に、独立系アナリストを支援するIND─Xセキュリティーズ(アジア)のプラットフォームに加わった。香港を拠点とする同社はアジアなど新興国市場を中心に30社以上もの独立系株式調査会社と提携しており、アジアではこうした独立系の調査会社が40社程度存在していると推計している。

ファンドの側でも機が熟している。銀行でコスト面での圧力から熟練のアナリストが減っていることから、シニア・ポートフォリオ・マネジャーは敏腕アナリストの立ち上げた独立系調査会社との契約を検討する可能性が高い。

アジアの独立系調査会社の契約手数料は年間1万ドルから10万ドル。こうした企業はコスト削減のために資源を共有し、スターバックスで会合を開くこともしばしばだ。

もっともガベカルのルイス・ビンセント・ゲーブ最高経営責任者(CEO)は主な課題の1つとして、投資にあたって調査を必要としないパッシブ運用型のファンドや上場上投資信託(ETF)の人気が世界的に高まっていることを挙げた。

INGグループ(シンガポール)のアジア調査部門責任者、ティム・コンドン氏は「調査機能全体が銀行から独立系調査会社に移るとは思わない。独立系に参入の余地があるのは間違いないが、主流にはならないだろう。バイサイドにとっては銀行ならば調査は無料で、他の便宜とセットになっている」と述べた。

銀行はファンドの取引執行や企業へのアクセスを手助けする。技術の発展で取引執行の面での優位は薄れたが、ファンドマネジャーを企業と引き合わせる分野は銀行がなお支配している。

独立系の調査会社がこれに対抗するのは難しい。しかし独立系調査会社は、顧客が求めているのは企業へのアクセスではなく、調査と意見の提出に価値を見出し、支払いをしているのだとしている。

フォーレンシック・アジアの創設者のギレム・タルホ氏は「ファンド業界は企業へのアクセス、調査、投資銀行業務などのサービスを別々に受ける方向に向かっており、独立系調査会社は勢いを増すだろう」と予想した。