一方、株式や投信などの保有比率は約9%と、米国の43%、イギリスの13%、フランスの23%、ドイツの17%に比べ低水準にとどまっている。

大和証券・営業企画部副部長の田口宏一氏は「政府・日銀の脱デフレ政策の目標であるインフレ率2%を達成した場合、家計の金融資産に占める有価証券保有比率が主要先進国並みに上昇すれば、少なくとも100兆円規模の資金がマーケットに流入する可能性がある」との見方を示す。

2012年に外国人投資家は日本株を約2兆8000億円買い越す一方、個人投資家は1兆9000億円の売り越しだった。個人投資家のマネーフローが変わる可能性もあるため、マーケット関係者からもNISAへの注目度が高まっている。

また、6月末時点で個人金融資産の外貨建て資産は2.3%にすぎない。これまでのアベノミクスではなかなか進まなかった外物への投資が進めば、円安要因にもなる。「1日、数百兆円が取引される外為市場のなかでは、それほどインパクトは大きくないかもしれないが、実需のフローが出れば材料にされやすい」(国内証券の外為アナリスト)という。

<保守的な英国人が直接金融に参入したきっかけに>

実際、1999年にISAが始まったイギリスでは、総人口の約4割に相当する2390万人がISA口座を開設するなど普及が進んでいる。利用者数の7割が年収200ポンド(約300万円)以下であり、低所得者層や若年層に浸透している。

2012年には、株式や債券、投資信託などを投資対象とする株式型ISAの金融商品残高が1903億ポンド(約23兆円)に拡大した。うち投資信託が7割と大半を占め、イギリスの投資信託市場の拡大に寄与している。

「ISAは保守的なイギリス人が直接金融に参入する一つのきっかけになったといわれている」と野村証券・営業企画部課長の芳谷剛伸氏は指摘する。

英ロンドンを本拠地とするシュローダー・インベストメント・マネジメント代表取締役社長のガイ・ヘンリキス氏は「今まで日本株が長期低迷していたため、現在の日本人の日本株保有比率は信じられないほど低いが、今後はイギリスのようにリスク性資産への配分を高めていくだろう。昨秋からの上昇局面では海外資金の流入が主体だったが、今後は日本の投資家が買い進めていくことを確信している」と話す。

<普及に必要な制度恒久化>

ただ、現在は期待の段階だ。日本証券業協会によると、NISA受け付け初日の10月1日時点で、証券128社で合計322万件のNISA口座開設が見込まれている。「申し込み数は想定を上回るペースで増えている」(SMBC日興証券・リテール事業推進部部長の中田太治氏)とされるが、2000万件を超える証券口座数との比較では多いとはいえない。2020年に利用者数が約1500万人、25兆円と政府が掲げている目標は、今のところ「皮算用」の色彩が濃い。

利用者拡大のポイントは、制度要件の緩和にあるとみられている。NISAで利用可能な投資商品が国内外の上場株式や上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)、公募株式投資信託などに限定され、MRF(マネー・リザーブ・ファンド)や外貨MMF(マネー・マネジメント・ファンド)などの公社債投信は対象外となっている。

また、一度売却した場合に非課税投資枠の再利用ができず、個人特定のための住民票提出など口座開設手順が煩雑であることなど、イギリスISAと比べて劣る点が少なくないと識者から指摘されている。

フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏は、NISA成功のためには、恒久化することが重要だと指摘する。現行制度では10年に限定されている実施期間を恒久化することにより、「月々の積み立て額が少ない若年層でもロールオーバーすることで年間の最大投資額100万円まで増やすことができ、長期間の資産形成が可能になる」という。

恒久化されれば、非課税期間終了時の時価が一般口座や特定口座などへの移管時の取得原価とみなされる問題も回避される。現行制度では、非課税期間終了時に値下がりしていた場合、その後、株価が元の取得価格に戻ったとしても、課税されてしまう。恒久化されれば、ロールオーバーすることで当初の取得価格のまま非課税メリットの享受が可能となる。

もっともイギリスでもISAが恒久化されたのは、開始9年後の2008年。効果などを検証した結果、制度をシンプルなものに変更した経緯がある。

現時点では日本のNISAは「個人のマネーシフトに向けた種まき」(大手証券)の段階だ。日本の預貯金が多いのは将来不安やデフレなど、それなりに理由がある。日本の将来に希望を抱けるようになり、制度要件などが緩和されれば、将来的に花開き「貯蓄から投資へ」の流れを加速させると期待されている。