皇太子妃が空席となったという知らせを聞いたその場で、縄主は自分の娘を推すことを決めたのである。
「宮中に入れるのでございますか。」
「うむ。」
薬子は夫の相談に驚きを見せた。
嫁がせると言っても今すぐに結婚するわけではなく、その地位も正妻ではない。それも当然で、正確な記録がないためはっきりとは言えないが、このときの薬子はまだ二〇代、どんなに歳を上に考えても三十歳になったかならないかという年齢である。
いかに結婚年齢が若いとはいえ、その年齢の女性の長女が何歳かと考えたとき、セックスに耐えうる年齢ではないことは容易に想像できる。
それに、縄主は種継とは比べものにならない低い地位。天皇の側近でもなければ高位の大臣でもなく、自分の娘を后に差し出すのは差し出がましいとしか言いようのない地位である。自分の夫を客観的に見て、薬子はそれが不安になった。
「まだ早すぎませんか。」
「早いに越したことはない。それに、宮中ならいつでも会いに行けるじゃないか。」
「そうですけど。」
「このくらいの歳で宮中に入るのは珍しくないぞ。」