土佐のかつおのたたきなどは、もっとも世間的に有名なものとしてひとびとの耳に入っているが、実際はたいしたことはない。なぜかといえば、土佐という海に面した国は料理が発達していないし、贅沢を知らないひとが多いからである。このため土地のひとにはかつおのたたきが、実に天にも地にもかけがえのないほど、うまく感じられるのである。
 以上のように、何事も視野が狭いとこんなことになってしまう。それを都会の半可通がめくら判をおして、土佐のかつおのたたきとしきりに鉦(かね)や太鼓を叩きたがるから始末に困る。実際はそれほどうまくもないし、やり方はわれわれからみると、むしろ食いにくいものにしているというほかない。

出典 『鮎の名所』