料理研究家と称される人々が昨日に今日にテレビで料理講習をやっている。美味と感ずるもののなかで視覚にたよるものが大(だい)な料理なのに、テレビ料理に出てくる先生というのが、調理するのに腕時計・指輪をはめたまま、ひどいのになると、ご丁寧にも爪紅(つまべに)までしている。こんなのを見ると、食欲減退である。それに料理研究家が揃いも揃って爺さん婆さんなので、テレビで大写しにされる手が、これまた揃いも揃って薄汚い。料理はもともと理(ことわり)を料(はか)ると書く通り、美味い不味いを云々するなら、美味の理について、もっと深く心致さねばなるまい。

出典 『味覚馬鹿』