家庭の料理は気儘が利く。故に、自然とその自己に生きるところがあるために、その本来の要旨を失うところが少ないが、料理屋の料理となっては、世間の様子、人の顔色といったようなものを気にしつつ進まんとする傾向があるので、大事な大事な手元の自己というものを失ってしまい、知らず識らずの間に、料理を非合法的なものにしてしまい、遂には得体の知れない怪料理をなすに至るのである。

出典 『日本料理の要点』