地方人がおのおの自分の土地のあゆがいいとか、まつたけがいいとか、たけのこがいいとか、我田引水を絶叫するのは、要するにその土地にいて、その土地の新鮮なものを口にするからうまいのであって、遠くから来たものを食っては、うまかろうはずがない。たいてい土地のひとが、めいめい自分の土地のものにかぎるというのはこの理由によるのである。
 しかし、地方人は都会人のように、さまざまのものを体験していないから、勢い我田引水におちいる。あゆにしても、まつたけにしても、いろいろと経験してこれがいいということにならないと、ものの真価をつかむことはできないものだ。井の中の蛙(かわず)で世界はこれだけだと思うようでは、いつまでたっても、ものの真価はつかめないのである。

出典 『鮎の名所』