猛暑と仕事で疲れていた私は、いつもよりかなり早めの9時頃に、子供と一緒に就寝することにしました。疲れていたので、すぐに寝入ることは出来ましたが、
早く寝過ぎたのと暑さのせいか、夜中に目が覚めてしまいました。
まだ目は閉じたままでしたが、ふと気が付くと、軽く握った自分の左手のひらの中に、何かがありました。
それは誰かの人差し指のようでした。
同じベッドに寝ている子供は自分の右側にねているはずです。
いつもそうしてますから...。それに、それは子供の指にしては大きすぎるのです。
ドキッとしましたが、目を開けて確かめる勇気はありませんでした。
それなのに、自分でもどういう訳か分かりませんが、反射的にギュッとその指を握ってしまったのです。
それは確かに人間の人差し指でした。
不思議と恐怖心は湧いてきませんでした。
というより、その指はどこかでさわったことの有るように感じで、懐かしくさえ有りました。
妻か、あるいは親か...とにかくそんな感じがしました。
そんなことを考えていると、左手の中に握られた指の感触が、スッとふいに消えて無くなりました。
しかし、今度はすぐ横に人が座っている気配、というより圧迫感を感じました。
その圧迫感が段々と重みに変わってきて、体中から冷や汗がドッと出てきました。
こんなことは、初めての体験でした。さすがに怖くなってきて、知っているお経を頭の中で何度か唱えました。
しばらくすると、その気配も突然スッと消えて無くなりました。
ほっとして、ゆっくりと目を開け、まわりを確認しましたが、何も変わったところは有りません。
子供は静かな寝息を立てて、やはり右側にねていました。
しばらく横になって、今の出来事を思い返してみました。
その時、ふっと亡くなった祖母の記憶が蘇ってきました。
自分にとって祖母は母親代わりの人でした。そんな祖母が老衰と院内で感染した病で、
余命幾ばくも無くなっていた時の事です。
週に何度か見舞いに行っていましたが、いつもはただ寝ているだけの祖母が、
その日に限って目をぼんやりと少しだけ開けており、私に向かってゆっくりと手を差し出してきたのです。
まるで助けを求めているかのようでした。
私はある種の恐怖心のようなものをその時感じてしまって、弱々しく差し出されたその手を、
どうしても握り返してあげる事が出来ませんでした。それからしばらくして祖母はなくなり、
自分はその日の事を少し後悔しました。
ふと気づくと…自分の左手のひらの中に、何かがありました。
感傷的になってると思われるでしょうが、あるいはさっき握った指は、
祖母のものだったのかも...と思うと泣けてきました。