申し分のない学歴や仕事、良き家庭を、自分の力で勝ち取ってきた良多(福山雅治)。順風満帆な人生を歩んできたが、ある日、6年間大切に育ててきた息子が病院内で他人の子どもと取り違えられていたことが判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中で、それぞれの家族が苦悩し……。
是枝監督は「僕自身、子供ができてもなかなか一緒にいる時間がなかったんです。ひと月家を空け、戻って翌朝仕事に行こうとしたら、『また来てね』って。一緒にいないで血がつながっているだけで父親といえるのだろうかって悩んで。主人公にそんな悩みをさせてみようと考えたことからスタートしました」と振り返る。
「母親の場合は、“そして”がいらないんですよね。うちの場合は、子供が生まれた瞬間に嫁さんが別の生き物に変化したような気がしたんです。急に強くなったような。『そうか、そんな風に人って変わるんだ』と思ったほどでした。でも、それほどには自分は変わったという実感もないし、実際に変わっていない。
それは性差なのか、10カ月という時間を抱えた人とそうじゃない人との差なのだろうか、ほかのなにかだろうかと考えたんです。しかも、子供が小さいときは、父と母では日々の密着度が違う。だから子供は母親がいないとまったくダメだけれど、父親は必要とされることがあまりない。そこで自分の存在意義みたいなもの、果たして必要とされているのか、必要とされるためにはどうしたらいいのかを考えたんです」
「父親って似ていることに拠り所を求めるんです。自分との繋がりを見ると安心なんですね。一度、子供が自分に似ているなと思って嫁さんに話したんですが、それが嬉しそうだったようで、『似てると嬉しいんだ』と不思議そうに言われたんです。そこで、女性にとっては似ているかどうかってどうでもいいんだと思った。うちは女の子ですが、男の子だと、父親はどうしても自分の子供時代と比べると聞いたことがあるんです。
特に福山さんが演じた野々宮のように優秀な人は、『自分がこの歳だったらこれができたのに、なんでお前はできないんだ』と思うと。特にこういうタイプは、良くない部分は妻に似たんだと思うんですよね(笑)。普段そう思っていることが、ふっと出るのがリアルだなと思って」
■我が子に言われた「また来てね」…自身の体験基に第66回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「そして父になる」が28日、全国で公開される。6年間育てた息子は、病…
『誰も知らない』などの是枝裕和監督が子どもの取り違えという出来事に遭遇した2組の家族を通して、愛や絆、家族といったテーマを感動的に描くドラマ。
いまや、現代を代表する日本人監督となった是枝裕和監督。カンヌ国際映画祭でも話題 を集めた『誰も知らない』ほか、『幻の光』『ワンダフルライフ』『歩いても 歩いても』など、 発表する作品がすべて国内外で注目の的となっている。第66回カンヌ国際映画祭で ...
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