一方、半沢の「倍返し」思想に疑問を投げかける人もいる。『大人力検定』などの著者で、「大人とは何か」を探求し続けているコラムニストの石原壮一郎氏だ。

「倍返しの復讐をすると相手に半分『借り』ができてしまいます。やられた相手も倍返しで借りを返そうとするでしょう。報復の連鎖を生むのです。それではスリルとサスペンスの毎日を一生続けることになります。3カ月で終わるドラマならそれでもいいけれど、長く耐えられたものじゃありません」

確かに、前半のドラマで半沢に逆襲された人たちのうち、支店長の浅野以外は心から反省しているようには見えない。最後まで憎しみの目を半沢に向け続けた人もいる。今後の長い人生で彼らがどんな報復に出るかはドラマでは描かれない。

石原氏は大量採用された半沢らバブル世代では、40代後半まで銀行に残れている人は少数派だと指摘する。

「上司に手柄を取り上げられ、失敗の責任を押しつけられた経験は誰しもあるでしょう。上司に黙々とくっついて働くことで身分を守らざるをえない状況も必ずあります。その過程で、憎い上司と同じことを気づかないうちに部下にやっているわけです。そうしないと銀行に残れないから。自分の意思ではなく、上司の命令でやったかもしれない。それなのに半沢のような部下から恨みを倍返しされたらたまらないですよね」

石原氏は、半沢に泣いて謝罪する浅野に自己投影して「贖罪が済んだ」と感じている人もいると推察する。不正やごまかし、言い逃れ、部下への責任転嫁をしてきた罪を浅野が身代わりとなって謝ってくれているのだ。

「でも、現実の自分は報いを受けずに無事に会社員人生を乗り切りたい。バブル世代より上の人は複雑で身勝手な感情を持ちながらドラマを見ているかもしれません」