お財布を意識し始めたのは、いまを遡ること9年前、私がまだ税理士事務所で見習いをしている頃だった。
当時、私には敬愛する、ある中小企業の社長がいた。年収約5000万円。もちろんお金持ちだったが、経営は手堅く、収入の大半を貯蓄に回しておられた。
ある日、社長の目の前で自分のお財布を出して、お金を払う場面があった。すると社長の顔色が、突然曇った。
「君は税理士を目指しているんだよね。僕は君みたいな人に、大切なお金の管理を任せたいとは思わないな」
社長が苦々しい顔つきで見詰めていたのは、私のお財布だった。
「君は、お金に対してきれいなイメージを持っていませんね。だから、そんなボロボロのお財布にお金を入れて、平気なんです。そんな意識の人は、税理士には向いていないんじゃないかな」
当時、私が使っていたのは、よく高校生が持っている2つ折りのマジックテープ式のお財布だった。値段は500円。常にお尻のポケットに入れていたので、ヒップラインに即して湾曲していた。