キスの効能の研究が盛んです。今年の「イグ・ノーベル賞」は、アレルギー症状の改善にキスが有効であることを示した大阪府の開業医・木俣肇院長に授与されました。

最近では、キスによっても分泌が促される脳内物質「オキシトシン」の様々な効果が明らかになってきました。


◆オキシトシンとは?

オキシトシンは脳内で神経伝達物質の役割を果たすホルモンで、ギリシャ語で「時間のかからない出産」を意味するように分娩時に子宮を収縮させる働きが古くから知られています。それ以外にも、子どもの泣声を聞いたり、子どものことを思い浮かべるだけで反射的に母乳が分泌されるというのも、オキシトシンの作用ということが分かっています。

さらに、オキシトシンはキスやハグによって増加し、人と人との絆を深める働きがあります。スイスチューリッヒ大学経済学研究所のKosfeldらによる2005年の研究によると、健康な成人男性へのオキシトシン投与によって「他人への信頼感」が増加したといいます。オキシトシンは夫婦関係や恋愛においてだけでなく、政治活動や経済活動を含め、愛や信頼に基づく社会的な活動のための重要な役割を担っていると考えられます。


◆オキシトシンと自閉症に関する研究

このようにオキシトシンは人と人との関係性に深くかかわるホルモンです。一方、人と人との関係性の障害が問題になるのが自閉症です。東京大学の研究チームは、オキシトシンが自閉症を改善する可能性について発表しています。

「自閉症スペクトラム障害」は、人口の100人に1人以上の割合で起きる発達障害で、表情や声色から相手の気持ちを汲み取るなどが困難なため、円滑なコミュニケーションを取ることができません。研究では、東京大学医学部附属病院の40名の自閉症スペクトラム障害の成年男性に対して、オキシトシンをスプレーで鼻に噴霧して対人反応を検証し、表情や声色を活用して相手の友好性を判断する行動が増える結果となりました。


オキシトシンはこれまでも夫婦間や母子間の絆を深めるホルモンとして知られていました。これに加え、医療の分野においては、オキシトシンを対人コミュニケーション障害の改善に役立てる研究が進められているのです。


<参考>
アトピーにはキスが効果的? イグ・ノーベル賞に日本人
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150918-00000016-asahi-soci

自閉症の新たな治療につながる可能性(東京大学)
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131219/

オキシトシンと発達障害
http://kodomokokoro.w3.kanazawa-u.ac.jp/menu_03/04-nou21-220514.pdf#search='%E3%82%AA%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%B3+%E9%87%91%E6%B2%A2'

監修:坂本 忍(医学博士)