2014年1月からスタートする日本版少額投資非課税制度(NISA)の口座開設手続きが13年10月1日、始まった。初日の申し込み件数は358万件で、まずは順調なスタートといえそうだ。

投資家の関心が高いことに加え、証券各社が「赤字覚悟」のキャンペーンを展開していることも要因。業界挙げて投資家のすそ野を広げようと必死だ。

■初日の申し込み受け付けは358万件

NISAは、年100万円までの投資で、売却益や配当にかかる税金が、最長5年間非課税になる制度。英国の個人貯蓄口座(Individual Savings Account=ISA)を参考に作られた。現行の証券優遇税制が13年いっぱいで終了するのに合わせ導入される。一人1口座に限り、証券会社や銀行に専用口座を開設▽いったん口座を開くと4年間は別の口座の開設不可▽口座開設できるのは2023年までの10年間▽ある年の最大非課税枠は500万円――といった特徴がある。

国税庁によると、初日の10月1日の申し込み受け付けは358万件。日本証券業協会の稲野和利会長は「非常に大きな数字。予想以上に順調に進んでいる」と手応えを語った。13年4月末、「ISA」に日本の「N」を組み合わせ、「NISA」という愛称を決めて以降、業界挙げてキャンペーンに取り組んだ成果が出たというわけだ。

例えば野村や大和、SMBC日興など対面証券大手は、口座開設完了後に現金2000円をプレゼントするといったキャンペーンを実施。全国各地の支店で、毎日のようにNISAの仕組みを解説するセミナーを開催している。

■システム構築や、販促費、口座の維持管理など、膨大な費用

ネット証券では、松井がNISA口座での株式売買手数料を恒久無料としたほか、SBIや楽天も2014年中の株式売買を無料とするなど、手数料の安さを前面に打ち出す。対面、ネットともに、NISA向けや、売買手数料無料といった投資信託を投入している会社が多い。

だが証券会社にとって、NISAは決して「おいしい」話ではない。投資家に積極的な株売買や投資信託購入をしてもらって、手数料を落としてもらう――というのが、証券会社個人部門の収益モデル。

ところが、NISA枠は年間100万円までで、いったん売却すると、売却した分の枠は使えない。つまり、売却しない方が、非課税の恩恵を長く受けることができる、長期投資に向く制度なのだ。手数料がなかなか落ちない上、専用口座のシステム構築や、キャンペーンなどの販促費、口座の維持管理など、膨大な費用がかかってしまう。

それでも証券各社がNISAの旗を振り続ける最大の眼目は、「投資未経験者の取り込み」にある。日銀の資金循環統計によると、1590兆円の個人金融資産のうち、54%は現預金が占める。株式や投資信託の割合は12%強に過ぎない。

■NISAをテコに、株や投資信託に

これがユーロ圏は23%、米国では43%に跳ね上がる。一気に欧米の水準まで高めるのは難しいとしても、NISAをテコにして、株や投資信託に関心を持ってもらえば、NISA以外でも売買が活発化し、手数料収入も増える――と期待しているのだ。

12年11月中旬、8000円台半ばだった日経平均株価は、アベノミクス相場により、13年5月に1万6000円寸前まで駆け上がった。このとき、相場を主導した外国人投資家の買い越し額はざっと10兆円。個人金融資産のうち1%が現預金から株や投資信託に移るだけでも、日本株へのインパクトは大きい。売買代金を伴った上昇相場は、証券会社に大きな利益をもたらす。

現状は「口座開設を申し込んだ人の大半が投資経験者」(大手証券)で、未経験者を含めた大きなうねりにはなっていない。だが、ここで「投資家のすそ野拡大」に失敗すれば、業界全体が先細るとの見方があるだけに、NISA普及へ向けた取り組みはますます強まりそうだ。