10月17日(ブルームバーグ):ワニ皮のハンドバックを手に入れるのは命懸けだ。世界の金持ちからの需要急増を受けて、仏LVMH モエ・へネシー・ルイ・ヴィトンからグッチの持ち株会社ケリングまで高級品メーカーはワニを買いあさっているが、まずワニから卵を取り上げるのからして命懸け。次に卵からかえった子ワニが別のワニに傷付けられないようにして「ハンドバッグまで育て上げる」のも一苦労だ。

サンフォードCバーンスティーンのアナリスト、マリオ・オルテリ氏は「ルイ・ヴィトン、プラダ 、グッチはそれぞれ、特別な人しか持てないブランドというイメージを高めようと躍起だ。これにはエキゾチックな動物の皮製品が有効だ」と話す。LVMHは今年ワニ園を購入。ケリングは皮なめし工場を買収した。「的を絞った買収は続くだろう」とオルテリ氏はみている。

同氏の見積もりによれば、高級ブランドハンドバッグの売り上げの10%近くを珍しい動物の皮製品が占めており、この比率は数年前の少なくとも2倍になっている。ワニ皮バッグが牛革に比べ30倍の値段で売れることを考えれば、ブランド各社がワニを愛して追いかけるのは無理もない。

オーストラリアに生息する塩水ワニのイリエワニが最も扱いにくいが、他の種類のワニも育てる費用は高く繁殖させるのに時間がかかる。南アフリカ共和国のワニ園兼皮なめし工場、ル・クロックを経営する元投資銀行バンカーのステファン・ファンアス氏は「こんなに難しい事業だと知っていたら、手を出さなかったかもしれない」と話す。ル・クロックは毎年、ナイルワニ5000匹相当の皮を欧州に出荷している。

ワニ皮ビジネスはなぜ大変なのか。第1に、牛革はそもそも食用牛の副産物。ワニの場合はその肉を珍味とみる人以外は食べないので、皮からしか収入が入らない。第2に、牛は放っておいても勝手に平和に反すうしてくれるが、ワニは違う。ナイルワニが卵から体重80グラムでかえった瞬間から、環境に気を配る必要がある。

ストレス管理も

ワニを囲ってある場所は毎日掃除する必要があるし、餌は非常に規則正しく与えなければならない。数人の慣れた飼育係しかワニに近づけない。餌は鶏肉のほか、皮のつやを良くするための特別な油を与える。ワニのストレスを小さくしないと、喧嘩をして皮に傷がつく。

「傷を受けたワニからは最高級の皮は取れない」とファンアス氏は説明する。さらに、ワニにストレスがたまると飼育係にも危険が及ぶ。アフリカのナイルワニはオーストラリアのイリエワニほど巨大ではないし、縄張り意識と凶暴性もそれほどではないが、友好的な動物とは言い難い。体長5メートル、体重700キロにもなり、水に落ちたものはほとんど何でも食べる。ファンアス氏の同僚の1人は水に落ちてワニに殺されてしまった。

しかも、ワニを満足させ自分が食べられないようにするだけでは高級ブランド会社に皮を売ることはできない。ケリングやLVMHは最高級10%のワニ皮しか使わない。

ブランド会社側も良い皮を手に入れるために労を惜しまない。ロンシャンのジャン・キャスグラン最高経営責任者(CEO)は「エキゾチックスキンの購買は複雑で大変」と話す。「供給は非常に限られている」という。そういうわけでLVMHは2月に豪州でワニ園を購入。ケリング はその1カ月後に皮なめし工場、フランス・クロコを買った。

それでも、苦労する価値はある。特に、購入まで数年待ちもあり得る人気商品「バーキン」を持つエルメス ・インターナショナルなどにとってはなおさらだ。通常、ハンドバッグは2枚のワニ皮があれば作れる。ファンアス氏の値段は1枚600ドル。バーキンに化けるとどうなるかと言えば、新品が手に入るまで待てない人のためにeベイでは中古品を3万9000-15万ドル(約382万-1470万円)で売っている。

原題:Crocodile Bites Show Why Your Birkin Bag Is So Expensive:Retail(抜粋)