コンピューターを通じて膨大な量の取引注文を瞬時に処理する超高速取引(HFT)を制限する技術が、既に外国為替市場で導入されて取引の土俵を平等化する試みがなされている。ただ、株式市場にはこうした技術の普及を阻む壁が存在する。

HFTの運営会社は、HFTは市場に不可欠な流動性を提供し、売買価格の差を縮めていると主張するが、批判的な人々からは価格形成をゆがめているとの声が出ている。

こうした中で銀行のグループは4月、HFTを制限する技術を取り込んだ独自の外為取引プラットフォーム「ParFX」を立ち上げた。既存の外為電子取引プラットフォーム「EBS」も8月にParFXと同様の手法でHFTを制限する措置を打ち出した。両者が用いているのは、注文執行の順序をランダム化して、最初に受け付けた注文を必ずしも最初に執行しないようにする仕組みだ。

バークレイズの外為スポット電子取引責任者で、ParFXの基本概念の開発に携わったデービッド・フォザリンガム氏は「われわれ(ParFX)は、注文執行をランダム化して一時停止する技術を利用している世界最初のプラットフォームであると相当程度確信している。別の1つの取引機関が追随したのは確認しており、他の多くの取引所が検討していることも承知している」と述べた。

だが米コンサルティング会社TABBグループ・ファイナンシャル、ラリー・タブ氏によると、同じような技術を株式市場に持ち込もうとしても難しいとみられる。規制がより厳しいことと、HFT運営会社は証券取引所にとって大きな収入源になっていることがその理由だ。

タブ氏は「株式市場では注文執行のランダム化を取り入れるのは非常に困難になる。なぜなら規制上は注文時間と価格の関係を非常に明確にする必要があると解釈されるからだ」としている。

<証券取引所の重要顧客>

株式市場におけるHFTの取引規模もシステム変更の障害になる。タブ氏は「HFT運営会社は証券取引所の重要な顧客であり、(HFTの制限は)取引所の顧客基盤にとっては邪魔で問題になるだろう」と述べた。

HFTは、ボラティリティの低下や資産クラス間の相関性が強まった影響で過去数年間は取引量が減少しているとはいえ、それでもなお金融市場における一大勢力であることに変わりはない。

TABBグループによると、米株式市場の出来高全体のうちHFTが占める割合は2009年が61%で昨年は49%、欧州ではそれぞれ38%と28%だった。

<ParFXで新技術は順調に稼働>

インターディーラーブローカーのトラディションでグローバル戦略とビジネス開発の責任者を務めるダニエル・マーカス氏は、ParFXが使っているHFTの制限技術は順調に稼働しており、他のセクターに利用が広がる可能性もあると語った。

トラディションは、ParFXを創設した11の銀行で構成するグループのためにインフラを開発し、実務を請け負っている。このグループにはバークレイズのほか、BNPパリバ<BNPP.PA>やドイツ銀行<DBKGn.DE>、三菱東京UFJ銀行<MTFGTU.UL>、モルガン・スタンレー<MS.N>などが名を連ねている。

マーカス氏は「外為スポット市場は、注文執行のランダム化技術を利用するための最適な事例だと思うが、HFTが影響力を及ぼしている他の市場にも同じように適用可能だと思う」と述べた。

もっともトラディションは、現時点ではParFXの拡大に専念するため、他の資産クラスでこの技術を使用する計画はない。

マーカス氏によると、ParFXは新たに10の銀行をメンバーに加えつつあり、来年初めにはノンバンクにも門戸を開く方針だという。