消費税を廃止した場合、経済や社会に多方面の影響が出る。以下に、起こりうる主な事象を簡潔に整理する。
1. 経済への影響
消費の活性化:消費税(日本では10%)がなくなることで、商品やサービスの価格が実質的に下がり、消費者の購買意欲が高まる。特に低所得層の生活負担が軽減され、消費支出が増える可能性がある。内閣府の経済モデルでは、消費税1%引き下げでGDPが0.2~0.3%押し上げられると試算される。
企業の収益改善:消費税は事業者が預かり納付するが、事務負担や価格転嫁の難しさから中小企業の利益を圧迫。廃止でこれが軽減され、価格競争力が高まる。
輸入品の価格低下:米国が「関税障壁」と批判するように、消費税は輸入品にも課税され、価格を押し上げる。廃止で輸入品が安くなり、消費者選択肢が広がるが、国内産業の競争圧力が増す。
2. 財政への影響
税収の大幅減:2023年度の消費税収は約23兆円で、国の一般会計税収の約3分の1。廃止でこの財源が消滅し、年金、医療、介護などの社会保障費や公共事業に大きな穴が開く。代替財源(所得税や法人税増税、国債増発など)がない場合、財政赤字が急拡大。
国債依存のリスク:日本は債務残高がGDPの2.5倍超と先進国中最悪。消費税廃止で赤字が拡大すれば、国債発行が増え、金利上昇や円安リスクが高まる。最悪、財政破綻の引き金になりうる。
3. 社会保障への影響
社会保障の縮小:政府は消費税を社会保障財源と位置づけている(実態は前述の通り曖昧)。廃止で財源が不足すれば、年金支給額の削減、医療費の自己負担増、介護サービスの縮小などが現実味を帯びる。特に高齢者層への影響が大きい。
格差拡大の可能性:消費税は逆進性(低所得者ほど負担感が大きい)が問題だが、廃止で社会保障が縮小すれば、低所得者向けの支援が減り、結果的に格差が拡大する恐れ。
4. 国際貿易への影響
米国の反応:米国は消費税を「関税障壁」と批判し、廃止を求める可能性がある。廃止で輸入品価格が下がれば、米国製品の競争力が高まり、対日貿易赤字の是正に寄与する。ただし、国内産業(自動車、電機、農業など)は輸入品との競争激化で打撃を受ける。
輸出産業の影響:消費税の輸出還付制度(輸出企業が仕入れ時に払った消費税を還付)がなくなる。経団連の試算では、大手輸出企業の税負担が数千億円増える可能性があり、国際競争力が低下する。
5. 政治・社会への影響
国民の支持と反発:消費税廃止は生活者にとって即座の負担軽減となり、政府への支持が高まる可能性。ただし、代替財源として所得税や法人税が増税されれば、中間層や企業から反発が起きる。
行政サービスの低下:財源不足で公共サービス(教育、インフラ、防災など)が縮小し、国民生活の質が低下するリスク。特に地方自治体は、消費税交付金に依存しているため、財政難に直面。
現実的な課題
消費税廃止の最大のハードルは代替財源の確保だ。単純廃止は財政破綻リスクを高め、社会保障や公共サービスの維持が困難になる。スウェーデンやデンマークのような高福祉国は、消費税(付加価値税)を20%以上課しつつ、透明な使途で国民の納得を得ている。日本の場合、税の使途の不透明さと無駄遣いが批判の根源であり、廃止より先に歳出改革や税の再配分を議論する必要がある。
結論
消費税廃止は短期的には消費活性化や生活負担軽減をもたらすが、財政破綻リスク、社会保障の縮小、国内産業の競争力低下など深刻な副作用を伴う。米国からの批判に応えるとしても、廃止ではなく税率調整や輸出還付の見直しなど、段階的な改革が現実的だ。完全廃止には、国民負担を伴う大胆な財政再構築が不可欠。