1. 噂の概要
内容: 農林中金が外国債券(特に米国債)の運用失敗により1.5兆~1.9兆円規模の巨額損失を計上。この損失を補填するため、農協(JA)や農林中金が米の価格を意図的に吊り上げ、国民に負担を押し付けているという陰謀論。
拡散の背景: 2023年以降、米の価格が急上昇(5kgで2500円程度から4000円近くに高騰)。同時期に農林中金の運用失敗による赤字が報道され、タイミングの一致から関連性を疑う声がSNSで広がった。
主な主張:
農林中金が損失を農協に押し付け、農協が米価引き上げで資金を回収。
米不足を演出し、先物取引や備蓄米操作で価格を維持。
農林水産省や政府もこの動きに加担している可能性。
2. 農林中金の投資損失の事実
損失の規模と原因:
農林中金は2024年度に1.9兆円の最終赤字を計上(当初予想は1.5兆円、過去最大はリーマンショック時の5721億円)。
主因は米国債など外国債券の運用失敗。低金利時に購入した債券が、米国の金利高止まりで価値が下落。含み損は2024年6月末時点で2.3兆円に膨らんだ。
外貨調達コストの上昇(ドル借り入れコスト>運用利回り)による「逆ザヤ」状態が損失を拡大。
対応:
農林中金は低利回り債券を12.8兆円売却し、ポートフォリオを株式やプロジェクトファイナンスにシフト。
JAなどから1.2兆~1.3兆円の資本増強を実施し、財務健全性を確保。
奥和登理事長が2025年3月末で引責辞任、北林太郎CFOが後任に。
農協への影響:
農林中金はJAから預かった約64兆円を運用し、年間3000億円を農協に還元。損失により還元が縮小する可能性があり、農協の収益に影響。
3. 米価急上昇の背景
価格動向:
2023年夏以降、米価が急騰(5kgで2500円→4000円前後)。2024年産新米後も高止まりが続く。
2023年夏の「令和の米騒動」では、米不足による品薄感が価格を押し上げた。
公式な原因:
需給要因: 2023年の猛暑や水不足による減産、インバウンド需要増、外食産業の米需要回復。
流通要因: 異業種や外国人による直接買い付け、投機的取引の影響。
政策要因: 1971~2018年の減反政策廃止後、需給調整が市場原理に委ねられたことで価格変動が拡大。
農家の視点:
生産者にとっては高米価が収入増に繋がるが、消費者負担や長期的な需要減を懸念する声も。
4. 噂の根拠と反証
噂を支持する主張:
タイミングの一致: 農林中金の赤字報道(2024年5月~)と米価高騰が同時期。
農協の動機: 農協は農林中金の還元に依存しており、損失補填のため米価操作に動いた可能性。
先物取引の再開: 2024年8月にコメ先物取引が復活。農林中金やJAが価格を吊り上げたとの憶測。
備蓄米の操作: 政府やJAが備蓄米放出を控え、米不足を演出したとの陰謀論。
反証や問題点:
直接的証拠の欠如: 農林中金やJAが米価を意図的に操作した証拠はなく、SNSの憶測に依存。
米価高騰の多因性: 需給逼迫や流通構造の変化が主因であり、農林中金の損失と直接リンクするデータなし。
農協の価格決定力: JAは米の直売価格を市場より抑える余地があるが、高騰は市場全体の動向による。
農林中金の構造: 農林中金はJAの預金を運用するが、米価操作のような直接介入は業務範囲外。
先物取引の影響: コメ先物市場は規模が小さく、価格全体を操作するほどの力はないとされる。
備蓄米の現実: 政府は2023年に備蓄米の一部放出を実施したが、市場への影響は限定的。
5. 噂の可能性と限界
可能性:
農林中金の損失が農協の収益圧迫につながり、間接的に米価維持の動機になり得る。ただし、これは意図的な操作ではなく、市場原理の中で農協が価格低下を避ける行動を取った結果と考えるのが妥当。
コメ先物取引の再開や備蓄米の管理が、価格高騰の一因として誤解された可能性。
限界:
米価を意図的に吊り上げるには、農林中金、JA、農水省、政府が組織的に連携する必要があり、現実的でない。農林中金の損失は金融運用に起因し、米市場への直接介入は困難。
米価高騰はグローバルな食糧価格上昇や国内需給の影響が大きく、農林中金の損失補填だけでは説明不足。
SNSの陰謀論は感情的な反発や不信感を反映しているが、事実よりも誇張された推測が多い。