同じ「じぶ」という名称であっても、調理方法には変遷があった。加賀藩の前田家に仕えた代々料理人が18世紀前期に書いた『料理の栞』に、「雁・鴨・白鳥などの肉をそぎ切りにし、麦の粉を付けて濃い醤油味の汁で煮、ワサビを添える」という「麦鳥(むぎどり)」と呼ばれる料理があり、これは現在の治部煮に似ている。いっぽう同書には「鴨肉を鍋に張った汁(醤油、たまり、煎り酒などを混ぜる)を付けながら鍋肌で焼き、汁を張った椀に5切れほど盛ってワサビを添えて出す」カモの鍋焼き、「じぶ」あるいは「じゅぶ」という別の鴨料理があった。ところが以後この二種類の料理が混同されて、19世紀前期までには従来の「麦鳥」のような料理が「じゅぶ(熟鳧)」と呼ばれるようになり、現在の「じぶ」につながる。