真っ暗だった海面の上に、突然、一束の火光が現われた。火光は分裂し続け、最後には数百、数千の光となって、海面と地平線の境が分からなくなった。

これが大妖怪不知火の伝説、この話は吉原の人々の脳裏に深く焼き付いていた。

離人閣で天下一の歌姫であった離は、絶世の美女であり、その歌と舞は多くの人々を魅了した。

彼女の出番では、毎回海面に一面の漁灯が繋がり、まるで伝説の大妖怪「不知火」。とある美しい、そして残酷な夜。

生命の火種が消えようとしたその瞬間、彼女は伝説と一つになった。歌姫「不知火」となった。

燃え盛る自由の心、その紅粧は焔の如し。今宵、繁星は海に墜ち、火蝶と化す。

赤い蕊と額、金の簪が揺れ踊る火蝶の舞。炎を浴び、生まれ変われしは昔日の佳人。