「会社にしがみつかない」働き方

ワークスタイル3.0図鑑【1】
PRESIDENT 2012年2月13日号

アンテレクト代表 藤井孝一 構成=大宮冬洋 撮影=相澤 正

brandnewmthn さん

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優秀な社員ほど社外活動を始めている

11年3月の東日本大震災以降、私が主宰する「週末起業セミナー」の参加者が急増している。週末起業とは、会社員でありながら余暇を利用して起業することで、リスクを抑えつつ事業を始められる方法だ。

以前は、「いつか起業したい」という夢を抱きながらセミナーに参加する人が大半だった。現在はもっと切羽詰まった雰囲気で、不況や電力不足、増税の不安定要素が重なり、「いつクビになってもおかしくない」「会社がなくなるかも」と、多くの人が会社生活に不安を抱えている。また、帰宅難民などの体験で、「家族の近くで働きたい」「やりたいことを先延ばししているうちに死ぬかもしれない」という現実にも気づき始めた。

会社での成績が上位2割層に入るような優秀で問題意識が高い人ほど、現状に強い危機感を持ち、週末起業などの社外活動を開始している。企業の耐用年数が短くなっている現代に、1つの会社だけで働き続けることは丁半博打のように危険な賭けだからだ。

「目の前の仕事に一生懸命に取り組んで自分の市場価値を高めるべきだ。そうすれば転職もできる」との反論もあるだろう。もちろん、平日は会社の業務をきちんとやり遂げるべきだ。それによって高まる能力もあるだろう。

しかし、「勤める」ということは他人からの評価に依存することを意味している。上司が代わったら評価も変わってしまう。組織に属していると、自分ではコントロールできない部分が多くなる。それなのに、丁半博打のように突き進むのは非常に危険だ。また、今の会社からリストラされるような時期には雇用状況が悪化している。どんなに優秀な人でも条件のいい転職は難しい。自分や家族の病気で急に会社を辞めざるをえないことも起こりうる。あなたは、そのときの「保険」をちゃんとかけているだろうか?

「商売のネタ」は誰もが必ず持っている

収入増の必要に迫られて、夜間や休日にアルバイトや副業を始める人もいる。否定はしないが「雇われ先」を増やしているにすぎず、リスクヘッジになっていない。不動産や金融商品などへの投資もリスクが高すぎる。

では、最もリスクが低くて将来有望な「保険」は何だろうか。それは、給与所得を維持しながら事業所得も得ることだ。まずは1円でも給料以外のお金を稼ぐことを考えたい。自分だけの顧客を持っていれば、どんな不況でも収入がゼロになることはない。小さなビジネスを自分で切り盛りすることで、会社員としての能力も高まる。まさに一石二鳥なのだ。

「自分にはビジネスにするほどの特技はない」という人も少なくない。しかし、それは間違いだと断言できる。会社での経験、趣味、子どもの頃の夢など、自分の棚卸しをすれば「商売のネタ」は誰もが必ず持っているものだ。

例えば、趣味のバドミントンを生かし、教材づくりやグッズ販売を手がけて、年商1億円のビジネスに育てた人がいる。テニスが趣味だがインストラクターをするほど上手ではないという人が、毎日のようにテニストーナメントを開催し、そのお金で家を建てた例もある。

優秀な会社員におすすめなのは、自分が属する職種を切り口にした「コンサルタント」である。例えば、ある住宅メーカーの敏腕営業マンは営業コンサルタントとして活躍している。もっと切羽詰まっている人は、現在の仕事の延長線上で事業を始めてもいい。ただし、会社では受けられないような小さな仕事を個人で受けるなどのすみ分けが必要だ。

管理職の人には、「個人向けコーチ」という選択肢もある。キャリアなどの相談事をじっくり聞き、自ら答えを出せるよう導く。会社でコーチング研修を受け、職場で実践している人ならば、すぐにでも始められるビジネスだ。個人コーチを持つことが日本でも定着しつつある今、意外なほど需要がある。

コーチ代は、週1回30分ほどの電話相談で月3万円が相場。お互いに昼間は会社勤めなので夜に電話をする。相談者を10人持っていたら、単純計算で30万円の副収入が確保できるのだ。

信頼を勝ち取れば口コミで顧客が広がる

営業は、ブログやSNS、メルマガを活用してお金をかけずに行っている人が多い。実績をつくり信頼を勝ち取れば、口コミで顧客が広がっていく。

以上のような方法論を聞きたがる人は多いが、実際はまったく難しくない。既存のやり方をそのまま真似ればいいからだ。コンサルタントやコーチの開業方法などはいくらでも指南書がある。

大切なのは、独自性を打ち出すことだ。いきなり「経営コンサルタント」を名乗っても無数の先達の中で埋もれてしまう。しかし、例えば、「文房具コンサルタント」ならば競合が極めて少ない。

どんな小さなネタでもいい。自分がやれること・やりたいことを既存のビジネスモデルと組み合わせる。それだけで単なる会社員を脱皮し、新しい働き方の世界に足を踏み入れることができるだろう。

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