アメリカ軍で最も強い狙撃手と呼ばれた、クリス・カイルの自叙伝を実写化したドラマ。アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズ所属のスナイパーであった彼が、イラク戦争で数々の戦果を挙げながらも心に傷を負っていくさまを見つめる。
映画『アメリカン・スナイパー』オフィシャルサイト。大ヒット上映中!
アメリカでは3月4日時点で3億3100万ドル(!)という驚異の興行成績を記録、クリント・イーストウッド監督史上最大のヒット作となった。また、これまで17年間破られなかった戦争映画ナンバーワン作「プライベート・ライアン」をも抜き、次々と新記録を打ち立てているのである。
このヒットの背景には、現在のISISをはじめとした、中東問題へのアメリカの感情が背景にあるとも言われています
主人公のモデルとなったクリストファー・スコット・カイル(1974年4月8日生まれ)は、イラク戦争で活躍した実在の人物。ネイビー・シールズに配属された狙撃兵としてイラク軍、アルカイーダ系武装勢力の戦闘員を160人以上殺害し、「史上最高の狙撃手」と賞賛された。
除隊後は民間の軍事会社を立ち上げ、自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手(原題:American Sniper)』を執筆し、ベストセラーに。映画『アメリカン・スナイパー』は、この本を原作にしている。
2013年2月2日、元海兵隊員エディー・レイ・ルースの母親からの依頼を受け、カイルは同僚と共に、テキサス州の射撃場でルースに射撃訓練を行わせていた。しかし、ルースが突然2人に向かって発砲。両名は死亡した。
ルースは戦争の後遺症でPTSDを患い、弁護士は統合失調症を発症していたとして無罪を主張していたが、2015年2月24日に仮釈放なしの終身刑が言い渡された。映画公開のタイミングで犯人に判決が出る、という偶然が重なったこともあり、裁判には大きな注目が集まった。
女優のジェーン・フォンダは「パワフル」「ブラボー、クリント・イーストウッド」と称賛のコメント。その一方で、北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺を題材にしたコメディー映画「The Interview」(原題)で騒動となった俳優のセス・ローゲンは、「(2009年の戦争映画の)『イングロリアス・バスターズ』の第3章で上映していた映画みたいだ」と作品の批判と受け取れるツイートをして、炎上してしまった。
映画監督のマイケル・ムーアは、「私のおじは第2次世界大戦でスナイパーに殺された。スナイパーはひきょう者だと教えられたよ。背後から撃ってくるんだ。スナイパーはヒーローなんかじゃないんだ。それに、侵略者はいっそうひどいよ」と本作を猛烈に批判した。
政治家のニュート・ギングリッチは、「マイケル・ムーアはイスラム国やボコ・ハラムのテロリストたちと共に過ごすべきだ。そうすれば、彼はアメリカン・スナイパーに感謝することだろう。我々を守ってくれる人たちを私は誇りに思う」と反論。監督・俳優のロブ・ロウも「これは冗談だよね?」とマイケルを批判している。
(町山智浩)イラク戦争のことを描いていることも問題なんですが、ひとつ、いちばん大きな問題になっているのは、160人も殺した狙撃手をヒーローとして扱っていいのかどうか?っていう問題なんですよ。
で、あともうひとつの問題は、160人も殺しているだけじゃなくて、この人、その本の中でいっぱいいろんなことを書いていて。『殺したことをまったく後悔していない。俺が殺したのは野蛮人どもだ』って言ってるんですね。イラク人なんですけども。
大量破壊兵器なんかなかったわけですよ。でっち上げだったんですけど。ブッシュ大統領の。ところが、この映画の中では911テロを主人公のクリス・カイルがテレビで見て、で、すぐ次のカットはイラクに侵攻するんですよ。
結局のところ、「戦争の英雄」を讃える映画であることには変わりはありません。
そして
それが、狂信的な保守派の強力な自己肯定の道具に使われるスキを大いに与えてしまってもいる。
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